※ちょっぴり不道徳表現有。



「なまえさん、前にデートの場所とかを牧さんと考えてる時に『私と付き合いたい人がいたとでも?』とか言ってたじゃないっすか。あれ、本当っすか?」

正直なまえさん綺麗だからいなかったとは思えないんすけど、と清田が聞くと、なまえは少し困ったように首をかしげ、頭を掻いた。

「あー・・。まあ、あれだ。いなくはなかったよ正直。」

「ほらやっぱり!」

「でも誤解しないでよ。よくあるじゃん、目立つ奴にちょっかい出しときたい、みたいなやつ。」


うざいよねあれ、あしらったら逆切れされたから返り討ちにしてやったわ、となまえが言うと、清田は顔面蒼白になった。

そんな清田を置いて「それに、」となまえは続ける。



「それに私、昔鉄男達と一緒にいたし。」

「テツオ?」

「ちょっと前までつるんでた奴ら。あと湘北の三井、わかるでしょ?その辺のメンツ。そんな前のことでもないのにな。なつかしー。」


毎日喧嘩してて怪我絶えなかったなぁ、となまえは清田に少し前のことを話し出した。






「鉄男!あたしのアイスまた食ったでしょ!?」

「食ってねえよ。」

「はあ?!あんたの部屋の冷凍庫あんた以外に誰が開けんのよ!」

「三井も開けるだろーが。ていうかまず俺の冷蔵庫の中に自分の物入れんのがわりーんだろ。」


食われんのが嫌なら名前書いとけバカ、と鉄男は煙草をふかした。

そんな鉄男になまえはチッと舌打ちをする。あのアイス食べるの楽しみにしてたのに、と何か代わりのものはないかと鉄男の冷蔵庫を漁る。



「お酒とツマミしかない。」

「文句あるのか。」

「あるよ甘いの食べたかったし。」


あーあ、私のアイスー、となまえはとっても悲しそうな声を出した。

鉄男はそんななまえの声を聞いて口から煙を吐く。



「奥の方にヨーグルトあんだろ。」

「え、うそマジ?」

「賞味期限切れてなければな。」


ヨーグルトという単語になまえは嬉しそうな声を出して奥を見る。すると本当にヨーグルトが入っていたようで奥から取り出した。賞味期限はあと2日ある。大丈夫だ。

しかもそれはプレーンのヨーグルトではなく、イチゴ味。甘いものが食べたかったなまえにとって嬉しい味だ。



「鉄男がイチゴ味なんて可愛いね。」

「うるせぇな、徳男が適当に買ってきたんだよ。」

「ふぅーん。」


スプーンどこー?と自分から聞いたにもかかわらず興味なさそうにスプーンを探すなまえに今度は鉄男が舌打ちをした。

棚の中からプラスチックスプーンを見つけたなまえは鉄男の横まで戻って一口一口ヨーグルトを口に運ぶ。



「・・・・おい。」

「ん?」

「お前その腕の傷どうした。」

「あ、これ?」


これ昨日喧嘩した時にできたんだ、とスプーンをヨーグルトの中に入れたままにして自分の右腕を見る。


5cmほどの赤くなった傷が白い肌に痛々しく咲いていた。

だがなまえ本人はそんなに気にしていないようだ。もともと顔に傷ができてもそこまで気にしないので腕なんて余計に気にしないのだろう。

鉄男はまたため息をつきながらタバコの火を消す。



「ヘタクソ。」

「はぁ?」

「怪我させられるなんてダセェ。」

「かすり傷でしょうが!」


あたしの大勝だったんだからね!となまえはムキになって言えば鉄男はなまえの手首をつかんでその傷を睨む。

3秒ほど見てからなまえの手を離したが、なまえはなんだなんだと鉄男の行動が理解できなかった。



「まあ昨日のは結構体格のいい男だったから怪我しただけ。普通にやったら怪我なんてしないし。」

「・・・・男?」

「ん。遊びに行こうって誘われたけど全然タイプじゃなかったしどうでもいいから無視したら腕掴まれて頭きたから罵声浴びせたら喧嘩に発展した。」

「・・・・・・どこのやつだ。」

「知らない。いいんじゃないの、私の勝ちだし。まあ偶然通りかかった三井も途中から手伝ってくれたからさ。」


鉄男の口からその男殺してやると聞こえたのは空耳に違いない。

のんびりと返すなまえに鉄男は怒りを抑えるように舌打ちをした。

舌打ち多いよあんた今日、というなまえにまたさらに舌打ちをする。



「あんたカルシウム足りてないんじゃないの・・?」

「うるせぇよ。」


誰のせいだこのクソ女、と内心イラつきながら鉄男はポケットから煙草を取り出す。

あとで三井に連絡しようと決めながらまた新しく煙草を口にくわえて火をつけた。




「あ、私もタバコ吸いたい。」

「俺のじゃ強ぇだろ。つーかお前は吸うなよ。」

「もうとっくの昔から吸ってるっつーの。」


今更っしょ、となまえは眉を下げる。


今更と言えば今更なのだが。なまえは初めて出会った時からあまり自分を大切にしない。

煙草も吸うし、怪我も平気でする。自分を守るために周りの人間に罵倒も浴びせてそれが自分に返ってきて心が荒む、傷ついてしまう。

傷ついているのに傷ついてないふりをする。

もうなまえは、自分の守り方を忘れてしまったのだ。


そんななまえを鉄男は捨て置けない。どこか、情がわいてしまったのか、それ以上なのか、他に理由があるのか、鉄男以外にその心の内はわからない。


鉄男はなまえが少しだけ寂しそうに瞳を曇らせたのを見逃さなかった。



「んなことより、お前もう少しうまく喧嘩しろ。」

「また話を戻すの?ていうか喧嘩に上手も下手もあるの?」

「怪我すんなって意味だ。」

「え、心配してくれてんの?」


めっずらしー!となまえは鉄男の横でけらけら笑う。


だがすぐにそのあとなまえが「気を付ける」と言ったおかげで鉄男の額に浮かぶ予定だった青筋は浮かぶことを回避した。



「あ、鉄男ー、私今日バイク乗りたいなー。」

「はァ?」

「乗りたい!」

「・・・どうしようもねぇガキだな。」


チッと本日何度目だかわからない舌打ちをしつつも、鉄男は横に置いてあったなまえ用の小さなヘルメットをなまえに投げてやる。

それを上手にキャッチしたなまえは嬉しそうに立ち上がった。




穢れなき思い出
(なつかしー。もうこんなことしてないからね!紳一に誓って!)
(いや、ていうかその鉄男って人もしかして・・・・)
(ん?)
(あ、いや、なんでもない、っす・・・)

****
話を聞いていて鉄男がなまえちゃんのことを好きってことに気づいたノブ。でも怖くて言えなかったオチ(笑)
鉄男はなまえちゃんを甘やかしたりタバコを吸わせないようにしてたと思う。

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