「打ち上げたかったけど今日は我慢な。」
「はあーい。」
藤真先生とファミレスでご飯を食べて、沢山お話をした。
藤真先生が高校生だった時の話、高野先生が好きな子に告白して振られた話、花形先生が実はモテた話。先生たちの色んな違う部分を聞けて凄く楽しかった。
そんな話を一通りした頃にはご飯も食べ終えていて、喉の渇きも潤っていた。
夏の明るい空もようやく闇に包まれて花火をするのに丁度いい時間になったので、藤真先生は会ったときから持っていた花火の入った袋を持って「行くか!」とファミレスを出る。
本当に奢ってもらってしまったのでお礼を言うと、気にすんな!と笑顔を向けられた。
こういう笑顔を見ると、本当に先生には見えなくて、そうだな・・なんていうかちょっと上の先輩、みたいな。凄く親しみやすくて思わずにっこりとしてしまった。
そして今はファミレスを出て花火をする場所へ向かって歩いている所だった。
「全く・・最近の高校生は冷めてんな。ダメだろそんな聞き分け良いのは。ここは打ち上げたかったのにー!とか言うべきだろ。花火打ち上げないで何が花火だよ。」
「手持ち花火とか。」
「片手に5本ずつ持てよ。」
「何の罰ゲームですか。」
この人は今までどんな花火の仕方をしてきたんだろうか。どうせ高野先生と花形先生が被害を受けたんだろう。特に高野先生。可哀想に、思わず同情してしまう。
「きっとそんな勢いで部員の事いじめてたんでしょう!」
「それが選手兼監督の特権なんだよ!」
「なんという・・!」
自信満々に言い放った藤真先生に言葉では何とも言い表せない、というか言い返せなかった。藤真先生は歩くスピードを緩めず、私の方を見ながらこう続ける。
いいか、みょうじ。世の中利用されるんじゃない、利用するんだよ。もちろん無理矢理その特権を掴むんじゃなくて自然にやってきた、生まれながらの特権を上手く利用するのが一番なわけ。
俺はバスケが上手かった、だからその部内で上まで行った。だから常識範囲内の、人を傷つけないくらいの横暴は許されるわけだ!
すんごい勢いで力説されてしまった。いいのか、そんな横暴は正義なんて公式じみた事を生徒に教えてしまって。親にばれたら訴えられるぞ。
でも勢いに負けて「はい」と言ってしまった自分が悔しい。
自己嫌悪に浸っていると、着いた着いた!と先生の声が聞こえたのでふとそちらを見れば最初に待ち合わせした公園に着いていた。
「さ、花火するぞ!」
笑顔いっぱいに綺麗な白い歯を見せて、先生は笑った。女の私が男の人に対してこういうのもおかしいけれど、ひまわりが咲いたような、そんな明るくて優しくて楽しそうな笑顔。
「はい!」
そんな笑顔につられて私も自然に笑顔になって公園に入った。鼻歌を歌いながら藤真先生はどこから出したのかバケツに水道水を汲み始める。
「どこにあったんですか?」
「あ、これ?これ今日の朝部活行く前に置いておいたんだよ。」
頭いいだろ?とちょっと得意げに笑う。
花火の袋を開けて、中身を出す。すると藤真先生は線香花火を先に渡してきた。私の中の勝手な常識かもしれないけれど、線香花火って全部の花火をやり終えてから最後にしんみり夏の夜空を満喫したり、お話したりしながらやるもんじゃないんだろうか。
「俺最初に思いっきり楽しんで、最後にしんみりっていうのダメなの。」
だから最初にやろうぜ、と先生は火をつけた。
藤真先生っぽいなって納得して私もしゃがみこんで火をつけてもらった。先がくるんとなってから丸い玉になる。落とさないように神経を集中していると、藤真先生がそういえば、と口を開いた。
「そういや花火で受験勉強用炎色反応覚えるとか俺言ったけど、実際に花火に使われてる成分違うからな。」
「は?」
「リンの炎色反応は?」
「あ、赤?」
「そうそう。でも花火だと使われてる原料違うから。」
「えぇ・・。なんですか?」
「炭酸ストロンチウム。」
「やめましょう。」
聞いたこと無いから、自分で覚えますから。と全力で拒否したら藤真先生は苦笑した。
線香花火を終えていよいよ普通の手持ち花火と手に取る。先生は片手に5本、なんてことはさすがにしなかったけど両手に1本ずつ持っていた。
火をつけて先生は手首を回して綺麗な円を描いた。消えかかる前に私は先生の花火に私の持っていた花火を近づけて火をもらう。私のも綺麗な炎を降らしながら燃え始めた。
花火をやるのなんて、いつぶりだろう。凄く新鮮で、凄く楽しい。そんな単純な感想しか出てこないのに心から楽しいと思えるんだから花火ってすごい。
「先生。」
「ん?」
「花火を課外授業にしてくれてありがとうございました。」
すごく、たのしい
藤真先生の方を見て心の底からの笑顔を見せた。見せたくて見せたんじゃない、自然に零れ出た笑顔。
そんな私を見て、先生は優しく笑い返してくれた。
「そう、それ。」
「え?」
「俺、お前のその笑顔が好きなんだよ。」
「・・・・え?」
「・・・は?・・・あ゛・・!」
一瞬だけ、静まり返った。花火もちょうど燃え尽きて、燃える音もしない。聞こえたのは、遠くから聞こえる車の音と、少しの風の音。
「ば、ばか!だまんなよ!」
「だだだだだだだって!」
「どもんな!あれだよ、その・・いつも言ってるけどお前生徒のクセして聞き分け良過ぎなんだよ!だから今みたいな遠慮の全く無い笑顔がいい、っていうか!」
ああもううるせぇな!と藤真先生は持ってた花火を勢いでぐしゃりと握りつぶした。理不尽全開だ。
うるさいなと言われてもこっちだってもうこの鳴り止まないうるさい心臓をどうにかしてほしい。
夜でよかった。もう完全に顔は火を吹いている。真っ赤だ。りんごよりも、トマトよりもきっと真っ赤だ。そんな顔、見られたくない。
「アチィなしかし!」
「わ、私小型ウチワもって来てますよ!」
どうですか!と鞄から手のひらサイズのうちわを出して先生に渡す。すると先生は「おお!」とちょっと嬉しそうに受け取ってくれた。普段の先生を見るからにきっと暑いのは苦手なんだろう。常にうちわを持っているから。
私だって今暑くて死にそうだ。主に顔が。
「・・・みょうじ。」
「・・・・はい?」
お互い少しの間全力でウチワを扇いでいた。
藤真先生の声にワンテンポ遅れて返事をする。藤真先生の顔色は暗くてよく見えないけど、表情は見えた。
「お前、覚えてるか。」
「なにをです?」
ウチワをパタパタ、藤真先生の顔を見ながら問いかけを問いかけで返した。そんな藤真先生の表情は少しだけこわばってるけど優しい。
「何年か前、ここで俺とお前が初めて会ったこと。」
「・・・へ?」
予想外の問いかけの内容に、ウチワを扇いでいた手が止まった。
数年前、初めて会った、なんて色んな驚きと新しい情報が脳を巡ってパニックに陥った。
なんて返したら良いか分からなくて、何の言葉も発せない。
「いいんだ。お前、小学生だったしな。」
覚えてなくていいんだ、と藤真先生は笑った。
それは優しくて、少しだけ寂しそうな笑顔だった。
夜空の下で、キミと (それは、小さくて大きな出来事と決意)
**** やっと進展させられた!
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