・・ポスッ
バシッ

・・ポスッ
バシッ



「っつー・・。楓ー、手がメチャメチャ痛いんですが・・・。」

「あぁ、悪ぃ・・・。」


いつものクセでつい、と楓は両手をグーパー握り締めたり開いたりして感覚を確かめる。

ちなみに今は楓の個人練習に付き合って自転車に乗って、近くの公園のバスケットコートに来ていた。

それで一通り楓はシュート練習をこなして満足したように休憩していたから、私はなんとなく楓に構って欲しくてパスしよう、と頼んだのだ。



「自分初心者なんで軽くね、軽く。」

「・・・練習にならん。」

「い、今休憩中じゃん!私の遊びの付き合い!」


そう言い返して柔らかくボールを投げ返す(ていうか柔らかくしか返せない)

楓はもちろん余裕でそのパスを受け取ると、さっきよりも優しい力でパスを返してくれた。



「楓はいつからバスケ好きになったんだっけ?」


ただバスケットボールのパスを続けてるだけっていうのもあれなので素朴な質問を問いかける。

なんだかんだで、長く楓と一緒にいるがバスケが好きということ以外で楓のバスケに対する気持ちを知ってはいない。なのでこれを機にちょっと聞いてみることにした。



「・・・覚えてねぇ。」


気づいたら手元にバスケットボールがあった、と楓は頭の上に微妙にクエスチョンマークを浮かべる。

楓らしいと言えば楓らしい。気づいたらボールを持ってた、なんて単純で清々しい。

テレビで誰かのプレーを見て感動してバスケを始めた、とか、何か面白いバスケ漫画があってそれに影響されたとか。もしかしたらちゃんと始めたその時に子供ながらに理由はあったのしれないけれど、楓はこの答えだけで十分に思える。

ふふ、と笑うと、楓は「しいて言うなら、」と口を開く。



「覚えてんのは・・・」


再び私が返したボールを器用に人さし指の上でクルクルと回転させた。




「誰よりも上手くなりたいと思ったこと。」



楓は静かにそう言った。


日本一に、いつかは世界一を目指すのだろう。

そんな彼の傍に、私がいて良いのかと今も含めてたまに思うけれど、一緒にいたいと思うからしょうがない。楓が私を拒む日まで一緒にいたいと思うし、そんな日が来ないことをずっと祈り続けてる。



楓の傍でそんなことを考えていたら、何を考えていたかわからないけど、珍しく楓は少しだけ楽しそうな顔をした。



「・・・・・・だからやめらんねぇ。」



楓は回していたボールを止めて、自転車の前カゴにのせる。

そして自転車から私へ視線を移した。



「帰んぞ。」

「・・・うん。」



自転車にまたがる楓。

その後ろの荷台と言う名の私の特等席に私は乗って楓の腰に手を回す。



「楓、」

「あ?」

「バスケも大切だと思うけど・・これからも、一緒にいてね。」

「・・・ん。」


ダイジョーブ、と楓の腰に回している私の手を優しくポンポン、と撫でてくれてそれだけで私の心は晴れた。



月のようなのに
(まるで太陽のように見える君)

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