あー、暑いなーなんて思い始める今日この頃。

食べているアイスが溶けるのが早くなったし、せっかちなセミも鳴き始めたし、入道雲も見る機会が増えたし、この前は夕立も降った。

おかげさまであの時はずぶ濡れになったが、どうやら夏が近づいてきたらしい。


ということは彼らにとって、彼にとって、青春の1ページとも言える勝負の時が迫ってきている。



「多分今日から部活動時間がより長くなると思うんだ。俺はそのあとに変わらずシュート練習するから、家に帰るのが今よりもっと遅くなると思うけど、」

宗ちゃんは机の横に掛けてあったバスケットシューズを手に取った。



「待っててね。」

「・・・いえっさー。」


帰りのショートホームルームが終わった後、宗ちゃんから言い放たれた一言。

普段は部活が終わってから宗ちゃんの個人練習、つまり500本シュートが終わるまで待ち、一緒にゆっくり帰っている。

普段から「危ないから俺が一緒に帰ってあげる」と言っている宗ちゃんの口から普通に「先に帰っていいよ」なんて言われないことはわかっていた。



「言われなくても・・待ってる・・・・。」

「なんで不安そうに言うの。」


目も泳いでるけど、と宗ちゃんは苦笑しながら席を立つ。


私の不安そうな言い方には理由がある。実は今日、大好きなドラマの再放送の日なのだ。

いつも通り帰れれば余裕で見ることが出来るんだけど、これ以上遅くなったら確実に見れないんだよね。すごく大好きなドラマなんだよね。救命救急の先生がとってもカッコいいんだよね。

うーん、どうしよう。今日はやっぱり帰ろうか・・・・。



「この前さ、」

「うん?」


1人宗ちゃんの目の前でウンウン悩んでいると、ふいに宗ちゃんに声をかけられた。

なぁに、とは聞かなかったけど、顔を上げて宗ちゃんの方を見る。



「『ドラマの再放送があるから!』とか言ってメールを俺に送って先に帰ったじゃない?」

「・・・うん。」


そして宗ちゃんは私を見て、にっこりと深く笑んだ。



「そんな理由で先帰ったらやります。」

「(ひいぃっぃぃぃ・・!)待ってます、絶対待ってます!例えどんなドラマが再放送しても待ってます!」


やっべぇ帰れねぇ‥!と心の中で暴れてしまった。何を「やる」のか怖くて聞けなかったけど本能で待つことを選択した。宗ちゃんに逆らってはいけませんという緊急のサイレンも脳内で響いた。

どっちの意味でも取れるような言葉を笑顔で言われたら、こう答えるしか私に未来はない。

心も体も冷や汗でびっしょりだ。

今日のドラマは捨てよう。リアルタイムで全部見るのが目標だったけど諦めようと心の中で泣いた。



「そ、それより宗ちゃん。もうちょいマシな忠告の仕方できたりしない?」

「悪いね、好きな子は虐めたくなる性分で。」


無理無理、とより一層深い笑顔で返されたからもう何も言葉が出てこない。

宗ちゃんはそんな私を見て頭をぽんぽんと撫でると教室の扉に手を掛けた。



「帰り一緒に帰らないとなんか夜落ち着かなくて。なまえは俺にとって安定剤、っていうの?そういう位置にいるから一緒に帰ってもらわないと調子狂うんだよね。」


困ったように笑う宗ちゃんがたまらなく愛しく思えた。


いつもはドス黒いのに、たまにこういう優しくて少しだけ弱い面を見せられると胸が苦しい。


でもそんな宗ちゃんが大好きなんだから、私は相当宗ちゃんに溺れてるなって改めて実感した時、彼は本領発揮した。



「だから待ってなかったら力の限り、やる。」

「待ってるから早く部活行ってくれ!」


待ってますから!と教室に私の声が響いた。



私と彼の日常の話


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これから頑張れなまえちゃん。

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