「どうして流川君がみょうじさんと付き合ってるのか、未だにわからないんだけど。」

「ちょっ、声デカいって!」



・・・・聞こえてるよ。

少し離れたところで購買で買ったパンをかじりながら私は心の中で呟いた。


別に今に始まったことじゃない。高校に上がってから1週間に1度は聞く。どうして楓と付き合ってるかなんて疑問を飛ばされても私だって答えられるかわからない。

強いてわかることと言えば、中学からのこの関係はもうすぐ1年を迎えるって事だけだ。



「(自然と付き合ってた気がするなぁ・・・。)」


イチゴミルクのストローを咥えながらふと思った。

一緒にいるのが心地良くて、楓が寝てるとき以外は話しかけたし、楓も話しかけてきてくれた。頭が悪いから補習も大抵一緒だったし、その時は途中まで一緒に帰ってたりもしてた。

そんな毎日を繰り返していたある日、楓が不器用ながらに告白してきてくれたのだ。

あの時はビックリした。中学の頃から天上天下唯我独尊を貫いていたあの男がいきなり告白してきたのだから。

しかも教室のど真ん中で。もう一度言うけど教室のど真ん中で。

あとから楓から話を聞けば、思ったことを思った時に言いたいと思ったら教室でそのまま言ってしまったらしい、なんじゃそりゃ。

それにしても、あの時のクラスの皆の顔は忘れられない。あの時のみんなと言ったらおかしいどころの騒ぎじゃなかった。

大騒ぎで調理部の友達が泣きながらお赤飯を炊いていた(アイドル的存在の楓が人のものになったのが悲しくて泣いてたのではなく、楓の唯我独尊を壊した私に対して嬉し泣きしたらしい)



「つーかさ、みょうじさんのどこがいいんだろうね。」

「(あれ、私ボロクソ言われてないか・・?)」


そんな思い出にふけっていると、言葉の暴言が飛んできた。いくら温厚な私でも少し頭にくる。

私のどこが良いかなんて楓に聞いてくれ。正直私だって聞きたいくらいなのだから。

そんなことを自分の中で言いながら一生懸命ストローを噛んで我慢していると、その女子生徒はまだ続けた。



「みょうじさん絶対なんか技使ったんだよ。だってそうじゃないと流川君がみょうじさんと付き合うわけないもん。」



もう我慢の限界だった。

技ってなんだ、技って。私はポケ○ンか。

陰口叩くなら私の目の前で堂々と言ってもらいたい。


・・・いや、違う。

きっと多分絶対私にケンカ売ってるな。


・・・・・・。



「(買ってやろうじゃんか・・!)ちょっといい加減・・、」

「オイ。」

「・・・・は?」


私が陰口を叩いている彼女達の方へ振り向くと、そこにはあからさまに不機嫌な顔をした楓が立っていた。

普段から愛想の無い顔をしているから人によっては見分けが付かないらしいけど、私にはわかる。いつもよりちょっとだけ目付きが悪い。



「あ、流川君・・・、」


しまった、というように彼女達の顔はだんだん青くなっていた。



「ふざけたことばっか言ってんな。うぜえ。」


冷たい目で彼女達を睨む楓は迫力がありすぎて、思わず息をのんでしまった。

怒った楓を見るのは本当に久しぶりだ。



「例え女でも許さん。」


その楓の一言で私の中にあった怒りは全て消えた。むしろ笑いがこみ上げてくる。


私が売られたケンカなのに、楓が買おうとしてどうするの。

あぁ、こういうところが好きなんだな、と自分で再確認した。今にも目つきだけで彼女達を圧倒してしまいそうな楓に近づく。



「喧嘩は買取不可となっております。」


ね?と楓の腕を掴んで微笑んだ。


楓は私を見て何かを考える表情をすると、眉間にしわを寄せた表情を崩さないままその場を去る。

きっと不服だったんだろうな。言い足りない、って顔してた。

教室を出て行く楓を見ながらそう思った。



「楓は怒ると怖いから。」


気をつけてね、とさっきの仕返しも込めて嫌みったらしく彼女達に言い捨てると私も楓のあとを追う。



自然となっていたこの関係。

どこが好きとか、具体的に言った事はなかったけど、今ならたくさん出てくる気がする。




愛しい愛しい
(かーえーで。)
(ん。)
(ありがと。)
(ん。)

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