ただいま夜の8時過ぎ。
誰もいない静かな薄暗い教室で部活をやってる楓を待ってる私。うーん、今日は早く終わるって言ってたんだけどな、と1人ため息をついてしまった。
部活見て待ってろって言われたけど、楓の親衛隊がうるさくて嫌なのだ。
私は基本的に嫉妬深くはないけれど、あそこまでキャーキャー言われて人気だったら、いつか彼女達に「楓は私の!」って言っちゃいそうで怖い。
楓の前で嫉妬全開になりたくない。なんか悔しいし。楓は絶対私に嫉妬することないからなんか負けたみたいでさらに悔しい。中学のころからそうだアイツは!あれ!なんかイラッとしてきた!
に、しても・・・・
「遅い。」
腕時計を見てまた深くため息をついた。
バスケットが大好きな楓が好き。
時間を忘れてバスケットに打ち込む楓が好き。
だから遅くまで部活に出てる楓に怒りを持つことはないけど、なんとなく寂しい。
これだけ暗いと柄にも無くそう思ってしまうのだ。
机に右肘をついて、手のひらの上に顎を載せて何も書かれていない黒板を見る。
すると廊下からパタパタパタパタとこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。
「わり、遅くなった。」
ガラッと扉が開く音とともに、楓が部活を終えて迎えに来てくれた。
腕で首にしたたる汗を拭いながら近寄ってくる。
「・・・・お馬鹿。」
「・・・は?」
「なんでもない。お疲れ。」
なんだ?と首を傾げる楓はとても可愛くて思わず笑った。
カタリと椅子から立ち上がって、机の横にある鞄を持って、私も楓の方に歩み寄る。
走って私を迎えにきてくれなければ、文句の1つや2つ言ってやろうと思ったのに。汗かいて走ってきてくれて謝ってくる楓見たら何も言えなくなってしまった。
「なんだよ。」
「いや、だからなんでもないって。」
「・・・・。」
そばまで行って楓を見上げると、楓はなんだか納得いかないような顔をしている。
そりゃそうだよね、私だっていきなり「馬鹿」なんて言われたらこのやろうって思うもん。
ふふ、と笑うと楓は少しだけ眉間にしわを寄せたので私は胸の内を少しだけ、吐露することにした。
「寂しかったよ。」
そう伝えると、楓は一度目をぱちくりさせた後、小さくため息をついた。
「だから体育館来て見てろって言った。」
「楓の親衛隊がうるさい上に怖いから嫌。」
教室から出るために2人並びながら足を進める。
私の発言に返事をくれない。でもそれに私は怒ることはない、昔からそうだとわかっているから。楓は何か考える時、少し黙るから今楓は何か考えてるのだ。
こういう風に私しかわからない楓のくせとか、そういうものを独占できているから少しだけ優越感に浸ることができる。
だから私は普段楓が女子に人気でも常に冷静に見ていられるのだ。
「無視すりゃいいだろ。」
タオルで汗を拭きながら何かを考えていたらしい楓は考えがまとまったのか口を開いた。
でもその楓の回答に私は何言ってんのと返す。
「女の争いって怖いんだよ?!醜いんだからね!」
昇降口に向かいながら、あんな大量の楓ファンに勝てるか!と言ってやった。
そうだよ、1対1なら勝てるかもしれないって思えて頑張れるけど数十人VS私は無理だと思うんだ。
どうすんの、屋上に呼び出しとか喰らったら。とふざけて笑いながら下駄箱から靴をとる。
「ちゃんとなまえが居れるようにあいつら追い出してやるから。」
「・・・はい?」
「だから、観に来い。」
思わず持っていた靴を落としてしまった。
だって普段の楓はこんなこと言わない。
気づかいとか、そういうものはすべてお母さんの中に忘れてきてしまったんじゃないかと思ってしまうほどに唯我独尊な男なのだ。
固まって返事をしない私を見ながら楓は再び口を開く。
「暗い教室に一人にするのは心配・・・・だ。」
なんとなく、と照れ隠しするように顔を伏せながら靴を履く楓。
この人はどれだけ私の心を破壊すれば気が済むんだろう。嬉しさと恥ずかしさで心臓がバクバク言っている。
こんな静かな昇降口じゃ、楓に聞こえてるんじゃないかってくらい大きく、心臓が飛び跳ねている。
「・・・・じゃあ、プリン2個で手を打とうかな。」
「どあほう。」
「のわっ!」
素直さに欠ける私も照れ隠しでそう言ったら楓にデコピンされた。痛い。
「太るぞ。」
「余計なお世話ですー。」
突っかかりながらも手を差し伸べてきてくれる楓の行動すら愛しく思えて、今度は素直に手を繋ぐと、暗くても明るい帰宅路を歩いていった。
grow up (でも本当にプリン食べたくなってきたからコンビニ寄って帰ろ!) (おう。)
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