「ただいまぁー。」
夜10時過ぎ、俺はいつもよりちょっと遅めの帰宅をした。
あー疲れたー、なんて自然にダルく呟やいてしまう。まぁでも明日は休みだし、ゆっくりしよーなんて自分を慰めながらネクタイを緩めつつ靴を脱ごうとする。でもその時なんとなく違和感を覚えた。
なにに違和感あるんだろう、と靴を脱ぐ体勢で1度固まって考えてみる。なにがいつもと違うんだろう。
玄関の明かりがついてなかったから?違う。いつもより帰ってきた時間が遅いから?違う。
違う違う、そんなんじゃない。もっと、大事な事。
「なまえ、」
そうだ、とすぐ思い出した。
いつも玄関のドアを開いて「ただいま」と言えば、料理をしてても洗濯物を畳んでいても、それを中断して玄関まで来てくれて「おかえりなさい」と言ってくれるのに、今日は・・ない。
思い出して当たり前なんだけど、疲れすぎてて自分の思考回路が少し止まってたらしい。疲れてたとはいえ、なまえをすぐ思い出せないなんて自分を殴りたい。
違和感の原因を思い出せた俺はすぐに廊下を通ってリビングの扉を開いた。
「なまえ?」
扉を開けてリビングを見渡すと、ソファーの上でスヤスヤと静かに寝息を立てて寝てしまっているなまえの姿を見つけた。
洗濯物のバスタオルを抱えながら寝てしまっているところを見ると、きっと畳んでいるうちに眠くなってそのまま寝てしまったんだろう。
ふに、と悪戯で柔らかい頬を人差し指で押してみても起きる気配は無い。可愛いなぁ、なんて思いながらなまえを見ると疲れた気分が一気にどこかへ行ってしまった。
一旦なまえから視線をずらして周りを見渡す。キッチンには今日の夕飯のカレー鍋がある。お風呂のスイッチを見るとちゃんとお風呂の準備も出来てるようだ。
どうしようかな、風呂入って着替えてから起こしてあげようかな?なんて思いながら再びなまえに視線を戻すと抱きしめているバスタオルをさらにぎゅっときつく抱き直していた。
可愛い、って思った。それと同時にそのタオルが憎らしい。なまえに抱きしめられるのは俺だけで良いのに。強いて他に許すとすれば、高校時代に俺がなまえにあげて以来大事にしてくれいるぬいぐるみだけなのに。
タオルに嫉妬するなんてどうかしてるって自分でもわかっているけど、嫌なもんは嫌。
風呂入ってから起こしてあげようと思ったけど、1秒でも早くなまえからタオルを引き離したいので今起こすことにした。
「なまえ?」
屈んで、横になって眠ってしまっているなまえと視線を同じくらいにする。優しくなまえの名前を呼んで、そして肩に触れて少し揺らしてみた。
「なまえ、起きて。」
起きて起きて、それで俺にその可愛らしい声で「おかえり」って言ってほしい。そしてそのタオルをすぐに離してほしい。そんなタオルなんかより、俺の方があったかいし、ぎゅうってしてあげられるし、頭も撫でてあげられるし、キスだってしてあげられる。
つまりは俺の方がタオルより上回ってるから早く起きてほしいってことで、少しだけ強く揺さぶった。
なまえはその揺さぶりに気づいてくれて、1度目をぎゅっとさらに強く瞑って体を丸めた後にゆっくりゆっくり目を開いた。
「なまえ、」
「・・・あきら・・・・?」
まだ目がとろん、としていて現実なのか夢なのかわかってないような表情をしていた。
その表情は可愛くて、それでいてどこか官能的に見えて、トクン、と心臓が跳ねる。
「ん、俺だよ。ごめんね、ちょっといつもより遅くなっちゃった。」
メールはしたんだけど、たぶん見てないよね?って優しく問えば、「うん」と力なく首を縦に振った。
猫みたいだ、なんて思って頬にかかっている髪を耳にかけてあげれば綺麗な顔がより良く見える。
少しずつ夢の世界から戻ってきてくれているなまえはようやく持っていたタオルを離してくれて、ぽたりと床に落ちた。俺はそれをすぐに拾って後ろの方へと投げ捨てる。
タオルに向かってざまあみろなんて思った俺はガキそのものだろうけど気分がいい。
「タオルなんて抱えて寝ちゃって・・どうしたの?」
寂しかった?と頬に手を添えて問えば、なまえはコクリとまた力なく首を縦にふった。
寂しいかと聞いて肯定してくれる事は、俺にとってこの上ない幸せで。なまえには俺がいないとダメなんだ、っていう満足感を得られる。
おいで、と横になっているなまえの両脇に手を差し込んで抱き上げるとそのまま俺の膝の上に乗せて抱っこした。
ぎゅうっと抱きしめればなまえの優しくていい匂いが鼻を掠める。なまえも俺の首に両腕を回してぎゅっと抱きついてくれる。
「起きられるかな?」って聞いてみれば「うん」と答えながら首に擦り寄ってきた。
なまえの1つ1つの仕草が可愛くってしょうがない。
なまえに溺れてる、依存してる俺がいる。なまえだから依存してるんだろうなって思う。
毎日なまえは俺に好きと言ってくれるけど、俺は好きなんて言葉じゃ足りない。なまえが思ってくれている以上に俺はなまえが好きで、いてくれないと困るんだ。
「今日はカレーなんだね。」
「うん。」
「美味しくできた?」
「うん、いっぱい煮込んだ。」
なまえの頭が覚醒してくれるように背中を撫でてやりながら話しかける。
そっかそっか、と頭を撫でてあげる。楽しみだなあって呟いたらなまえは嬉しそうに目を細めた。
そんな風に綺麗に可愛く笑むから、我慢できなくなって。
啄むように優しくキスをした。
好きで好きでどうしようもない。
それしか考えられなくて、もっともっとなまえが欲しくて角度を何度も変えてその行為を深くした。たまに空気を吸うたびに漏らす声がひどく愛らしい。
最後にちゅっと下唇を吸って離れれば、キスをしたせいで目が完全に覚めたなまえが顔を赤くしていたけど、なまえは俺の隙を見て俺の頬に軽くキスをした。
「おかえりなさい。」
ずっと聞きたかった最愛の人からの言葉。
ふへへ、と優しく笑うなまえはすごく可愛くて、それでいてすごく俺を癒してくれて。あぁこれが幸せってやつなんだなって噛み締める。
ただいま、と笑んでからなまえの顎に手を添えて、そのままなまえの柔らかな唇にもう一度キスを落とした。
君なしじゃいられない
(あ、ご飯炊くの忘れちゃった・・) (コンビニにご飯だけ買いに行こうか)
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