「牧さんってバスケ凄く上手いし、ガタイも良いし、器量も良いし・・・・カッコいいよね。」



今思えば、私はなんてことを言ってしまったんだろう。

私が言いたい事は内容的に合っているけど、相手が宗ちゃんなんだからもっとソフトな言い方をすればよかったのに。


ジュースをストローで吸っていた宗ちゃんが目を点にして私を見たあの表情、あの間。

ヤバいと頭が認識する前に、体が宗ちゃんの何かに反応した。



「・・・・・あ、いや、その、」


えっと、ですね、と思わず目が泳ぐ。

どうしよう、さっきの私のありえない発言を打ち消すフォローの言葉が見つからない。

なんて事言ったの私、もっと違う表現を使えなかったの私、今からでも遅くないかもしれないかもしれないかもしれないかもしれないよ私、謝れ私!


あたふたしていると、宗ちゃんはくわえていたストローを口から離してジュースを机の上に置いた。



「そりゃあ牧さんは俺も凄いと思うし、憧れてるし、心から信頼してるキャプテンだよ。」

「・・・・?!」


また、怒られるのかと思って身構えてたのに、・・・・むしろ同意された。

やった。今日女神は私に微笑んでいる。



「そうだよね!素敵なキャプテンさんだよね!私もそれが言いたく・・・!」

「でも彼氏の目の前で牧さんをカッコいいとか言う?」

「(微笑んでなかったああ!)」


ニコニコニコニコ今日の宗ちゃんの笑顔は一段と輝いていた。

毎回こういう状況に陥るたびに思う。純粋無垢な笑顔はどこへ行ってしまったんだろう。どうして私は学習能力が無いんだろう、って。



「しかも何?牧さんはガタイも良いし、ってなまえは遠回しに俺がひょろひょろって言いたいわけ?俺への当てつけ?」

「(酷い受け取り方されちゃったよ・・・・!)ち、違うよ!」

「へー、ふーん、そう。じゃあどうしてそういう意地悪なこと言うの?」

「(ひいいぃぃぃぃ・・!)意地悪してるのは宗ちゃ・・、ひたいひたい!」

「ん?額?」

「っー!いった、痛い!」


あろうことか、宗ちゃんは笑顔のまま私の両方のほっぺたをつまんで横に伸ばした。


宗ちゃんは意地悪する時に私のほっぺたを引っ張ったり、頭を鷲掴みにして力を入れたり、ほっぺたを突いたりするのが好きなようだ。

突くのは痛くないから構わないんだけど、引っ張られるのと鷲掴みされるのは結構痛いからやめてほしい。



「あはは、赤くなった。りんごみたい。それにしても美絵のほっぺは柔らかいね。餅みたいだよ。」

「うう・・・、それは遠まわしに太ってるって言いたいの?」

「違うよ。餅そのものだね、って言ってるの。」



今日の宗ちゃんは毒舌の調子が凄く良い様だ。磨きがかかっている。

それにしても「餅みたいだね」って遠まわしに「太ってる」と言われるのと、「餅そのものだよ」って言われるのはどっちの方が精神的ダメージが大きいんだろう。

ああもう今まで色んな表現使って虐められてきたから、その辺の感覚薄れてきちゃったよ。



「・・・・・なまえ。」

「ふ?」



宗ちゃんにつままれて熱を持ってしまった頬を擦り、1人考えにふけこんでいた時に声をかけられて思わず間抜けな声を出してしまった。



「なんでいきなりそういう変な事言ったの?」


宗ちゃんの顔から笑顔が消えいていた。

怒ってるわけでは無さそうだけど、目つきが真剣でいつもの宗ちゃんじゃないみたい。



「・・・どうしたの?」

「質問してるのは俺。」



周りに全く人がいないわけじゃないけれど、何人か人がいて。それなのに私たちしかいないような感覚に陥ってしまう。

それくらい今の宗ちゃんの目つきは怖かった。


もうダメだ、私の命は今日で尽きる。

私は一世一代の覚悟を決めて、下を向き、両手をグーにして、両目をぎゅっと瞑り、本当の事を言うために口を開いた。



「・・・・ノブ君に相談したの。宗ちゃんはいつも余裕があって、私ばっかりがドキドキしちゃうから悔しいからどうすれば良い?って。」

「・・・は?」


凍り付いていた世界が一瞬にして消えた。


宗ちゃんは宗ちゃんらしからぬ間抜けな声を出して、目を点にして口を少し開いてポカンとしている。

宗ちゃんが攻撃して来ないうちに、私は話を続けた。


「そしたらノブ君が、神さんにヤキモチ妬かせてみたらどうですか?って提案してくれたの。」


だから牧さんカッコいいよね、って言いまし、た。


私はもう後の報復が怖くて、最後の方は消えるくらいの小さな声で言った。


だけどまたほっぺたを抓られるかと思って、目を瞑って構えていたのに何の痛みも感じてこない。

ビクビクしながらゆっくり目を開けばそこには固まったままの宗ちゃんがいた。


宗ちゃんらしくない。

私はまた苛められる覚悟で生意気なことを聞いてみた。



「や、妬いてくれた?」

「・・・・妬いてない。」

「・・・えぇ。」

「だから、俺は・・・、その、・・・なまえのくせに生意気だな、って思っただけだよ。」



でもそう言った宗ちゃんの顔は本の少しだけ顔が赤くて、どこか拗ねているような、どこか悔しそうな、そんな表情をしていた。




素直になんか言ってあげない

(俺一瞬マジで牧さん潰しにかかろうか考えちゃったよ。嫉妬どころの騒ぎじゃない・・・・。・・とりあえずノブは埋めなきゃ。)

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