藤真先生からアドレスと電話番号が書かれた紙をもらったその夜、私は携帯の前に正座をしながら悩んでいた。

1時間くらいなんて文章で送ったらいいか悩み続けて、無難に自分の携番と「よろしくお願いします」の文章を顔文字付きで送ったら5分後に「もう少しで日付変わんぞバーカ」と返信が来た。殴りたい。・・無理か。

そんな気持ちを抑えて「大会頑張ってくださいね」と送れば「任せろよ!」と今度は顔文字付きで返ってきた。可愛い、なんて思ってしまった自分を殴った。


そして今日は、翔陽が大会初めての試合をした夜である。



「(勝ったかな・・?)」


藤真先生に出された鬼のような課題と睨めっこしながらそんなことを今日一日考えていた。

考えすぎて課題が全く進まなかった。先生が帰ってくるまでに全部終わらせとけって言われたから出来るだけ早く終わらせないといけないのにどうしよう。


そのとき、だ。電話の着信音が鳴り響いたのは。一瞬だけ体がビクゥっとなって持っていたシャープペンシルを落とした。

まさか、まさかと思って携帯の画面を見ればそこには藤真先生の文字が。



「も、もしも・・!」

「聞いて驚くな。いや、驚く必要はないな。必然だからな!」


慌てて電話に出れば藤真先生のテンションがおかしい事にすぐ気づいた。興奮しているのを一生懸命抑えているようで、でもそれは隠しきれていなかった。



「えーっと・・?」

「俺たちの勝利だ。」


初戦突破だ、と藤真先生は心の底から嬉しそうに満足そうな声で言った。笑顔も想像出来るくらいの優しい声で。



「おめでとうございます。」


本当に嬉しそうな声だったから、バスケ部員でもない私まで嬉しくなってしまってにっこりと笑いながらそう言ってしまった。藤真先生には電話越しだから先生に見えないのに本当に自然の笑みがこぼれてしまう。



「ま、まぁそれを言いたかっただけなんだけどな・・・。」

「そうですか。」

いきなり冷静さを取り戻した藤真先生にクスリと笑いながら返事をした。

藤真先生の顔は見えないのに表情や仕草を想像できてしまってどうしても顔がにやけてしまう。



「で?おまえはどうだよ?俺の課題。」

「いや、あれは鬼ですよ、鬼畜ですよ、正直終わる気が全然しません。」


祝いの雰囲気から一転現実に戻された私は拳を握って先生に力説した。

有機化学ってどうしてあんなに全部同じに見えるんですかね、何で六角形なんですかね。あと私未だにモル計算とかわからないんですけど、そもそもモルってなんですか、とりあえず計算問題は適当にかけたり割ったりしてるんですけど。

一息に言えば先生は電話の向こうで苦笑していた。



「だから言ったろ?わからないところがあれば電話でもメールでもしろって。」


そのためにお前に俺の個人情報を教えてやったんだからありがたく思え、と最初の一言の感動を潰された。


一瞬だけ、先生の優しい声と言葉にドキンと胸が鳴ったのに当人に潰された。



「自分を殴りたいです、先生。」

「はぁ?やめとけよ、余計頭悪くなるぞ。」

「っ!」


キー!と電話越しに暴れると先生は電話の向こうで笑っていた。

そして電話の遠くで「藤真ー!」と高野先生が藤真先生を呼んでる声が小さく聞こえた。



「あー、わかった今行くー!・・ってことで、みょうじ。」

「はい?」

「俺はまだ帰らないから、課題頑張れよ。」

「・・・・うい。」

「あとで有機の部分のポイントメールで送ってやるから!」

「え、ちょ、いいですよ!試合の監督で疲れてるでしょう?」

「バーカ、それじゃあアドレス教えた意味ねーじゃねぇか。」


生徒が変な気ぃ使うなバーカと藤真先生に言われた。この電話だけで私は一体何回「バカ」と言われたんだろう。

ちょっとだけグッタリしながら先生に「さようなら」と言おうとした時、「みょうじ、」と呼び止められた。



「その課題、間違いがあってもいい。間違えるのは当たり前なんだから。とりあえず全部終わらせておけば、帰ったときにまたアイス奢ってやる。」


だから頑張れよ、と先生が優しく私に鼓舞し、電話を切られた。

ツーツー、と虚しく音がする携帯電話をゆっくり耳から話して、親指でオフボタンを押す。その親指は少しだけ震えていて、そして心臓はドキドキどころかバクバクいっていて、今にも口から心臓が出てくるんじゃないかと思うほど。



「(電話のたび・・こんな感じだったら・・・)」


心臓持たない・・、と熱を持った顔を一生懸命冷やすように火照る頬に手をあて、自分の中で何かと葛藤している自分は後で落ち着いて冷静に考えるとちょっとだけ気持ち悪かった。



約束が増えました

(みょうじと電話してたろ?)
(高野うるせー。)
(藤真くん可愛いー・・って!ちょ!殴らないで!)

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ちなみに任せろよ!の顔文字は「ミα(゚Д゚ )!」がいいです。

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