「あっつい!」

「うるせー!お前だけが暑いと思うなよ!バーカ!」


先生に持ってはいけない感情が芽生えた気がする。

そんな前回の血迷った発言を撤回したいと思う。

今その発言を上塗りできるならこう上塗りしたい。それは殺意であると。



「暑いですよ!暑いのに暑いって言って何が悪いんですか!高野先生の扇風機奪ってくる作戦はどうしたんですか!」

「アイツんち顔に似合わず冷暖房完備だったんだよ!つまり扇風機無かったんだよ!」

「だからって本当に何も無しって・・・・!」

「だからちゃんとウチワ持ってこいっつったろーが!」



俺のは貸ねぇからな!と藤真先生は子どもみたいに自分で持ってきたウチワで自分にだけ風を全力で生み出していた。

くそう、翔陽はどうしてこの人を呼び戻したんだろう。私は思う、花形先生だけで十分だったのじゃないかと。



「お前、心の中で良からぬこと考えてるだろ。」

「そんなことないですよ、本当の事を考えてただけです。」


にっこり汗だくのまま先生にそう言えば藤真先生もにやりと笑った。

ここ最近藤真先生に対して言い返せるようになった私の精神的な成長を誰か褒めてくれ。よくやったね、と言ってくれ。なんて、翔陽の友達には言えないけど(だって藤真先生の人気は絶大)



「ところで先生。」

「あ?」

「どうしてこんな暑いのに硫酸使った実験させるんですか。」

「・・・・暑さに硫酸関係あるのか?」

「ありますよ。暑さにプラス激臭。なんというコンボ攻撃。」


それに耐えてる私は何ていう強靭な生徒、と続ければ藤真先生は鼻で笑った。悔しい。



「俺なんか午前練やってそのままお前の補習見てやってんだからな。」


ありがたく思え、とビシィっと指差してきた。

それは確かにありがたく思わないといけないけれど、この藤真先生の俺様な態度はどうにかならないものだろうか。

毎回心の中で思ってもどうにもならないのでもう考えない事にした。



「藤真先生ってどうして女子生徒にモテるんでしょね。」


あまりの俺様加減にちょっとだけ意地悪をしてみた。それが藤真先生にとって意地悪の部類に入るかは疑問だけれど。

藤真先生の方を見るととても呆けた顔でこっちを見ていた。



「はぁ?」

「だって、よく休み時間女子生徒に囲まれてるじゃないですか。」


思い出すと最初に浮かぶのは、購買にパンを買いに行く時によく見る光景だった。

笑顔の藤真先生の周りにキャーキャーと愛想よく笑いながら話しかける女子生徒がいる様子。

先生から化学を個人的にに教わるようになってから、なんとも複雑な気持ちで見ている光景。それは入学当時から何も変わっていないけど、私の心の中では大きく変わっていた。



「なに、俺が人気でさびしーの?」

「・・何言ってんですか。翔陽ナンバーワン人気の先生ですよ?毎年ベストオブティーチャーに選ばれる藤真先生ですよ?・・・・寂しいなんて、思いません。」


個人的に教わってることでさえ、奇跡に近いのだから。と、心の中で自分に言った。


自分に言い聞かせるなんておかしい。だって私は生徒で、藤真先生は私の補習の先生で、ただそれだけの関係なのに。



「・・それよりどうですか、今年の翔陽バスケ部は。」


強いですか?話題と自分の愚かな考えを逸らすために聞けば藤真先生の瞳がキラキラ輝きだした。



「聞いて驚くなよ、みょうじ。強いなんてもんじゃない。俺が学生の頃は打倒海南を前提に全国へ行く事が目標だった。でも俺の目にはハッキリ映し出されてる。」


海南どころか全国制覇も夢じゃない、と藤真先生は心から嬉しそうに語った。


バスケ部はもう今年は全国出場を決めている。しかも念願の海南を倒しての優勝で。

それは選手の力と技術の賜でもあるが、藤真先生の的確な指導の賜でもあった。


もうすぐ先生もバスケ部の顧問として全国と戦う為に遠征やら全国会場へやらへ旅立つ。

だから私は少しの間、夏休みの間も「週5学校」という恐怖かつ鬼畜の毎日から解放されるのだ。


それは喜びと同時に、寂しくもあった。



「俺は高野と花形と、選手たちと一緒に少しの間全国へ挑みに行って来る。」


そんなちょっとだけ寂しい気持ちに打ちひしがれていると、それを察したかのように藤真先生が優しく笑って私に話しかけてきた。



「週5で補習見てやる約束だったのに、ごめんな。」

「・・・・いいですよ。」


机を挟んで、目の前にある椅子に座りながら言う藤真先生を見て私はぎこちなく笑った。



「先生は、先生になる為に翔陽に帰ってきたんじゃない。おこがましいですけど・・・・それはこの翔陽の生徒の誰よりも知ってるつもりです。」


だから、約束なんて気にしないでください。そう笑えば藤真先生は一瞬寂しそうな顔をしたけれど、困ったように笑って手を私の頭に乗せた。



「生徒のクセして聞き分け良いなんて生意気なんだよ。」


ゆっくりその手を滑らせて私の頭を撫でた。



「週5で化学の補習を見てやれないのは本当に悪いと思ってる。俺は約束を破るのは嫌いだ。」


けど、と藤真先生は続けた。



「わかってくれてありがとう。全国は決勝まで行っても8月の頭で終わる。」


まぁ決勝で優勝を飾って帰るからどんなに早くても帰りは8月頭だけどな!と藤真先生は子どもみたいにはしゃぎながら近くのノートを適当に引っ張り出して、乱暴に破った。そしてシャーペンを持つと何か書き始める。

何を書いてるんだろうと思いながらその動作が終わるのを待っていると先生は「よし、」と満足そうに笑いながらその紙を私に渡した。



「ほれ。」

「・・・へ?」


なんですか、とその紙を見ればそこには・・・・



「アドレス、と携番・・・?」


ビックリした。本当にビックリした。

だってその紙には男子バスケ部の部員の一部しか知らないような藤真先生の個人情報が書かれていたのだから。

どう反応したら良いのかわからなくて、その紙と藤真先生を交互に見ると先生はおかしそうに笑った。



「大体1週間俺は翔陽を離れるけど、その間何かわからないことがあれば電話でもメールでもして来い。」


夜にでも返してやる、と藤真先生はとっても綺麗に笑った。




素敵なプレゼント

(他のやつに教えたら殺す。)
(先生のクセになんて横暴・・・!)

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藤真とメールしたい!

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