待ちに待った夏休みがやってきた。明日から夏休み突入だと思うとわくわくが止まらない。高校最後の夏休みだと思うとなおさらだ。

私も含め、受験生には厳しい夏だろうけど「夏休み」という響きはどうしてこんなにも魅力的なのだろうか。

あ、通知表の結果なんて気にしないよ。



「気にしろ。」

「電柱はありませんでした。」

「化学はアヒルだけどな。」

「・・・・グワッ。」


アヒルのまねをした瞬間、藤真先生にテキストを丸めたもので叩かれた。

まだちょっとだけ痛みの残る頭を擦りながら藤真先生を見るととっても清々しそうな顔でこっちを見ている。きっと普段の鬱憤を私で晴らしたに違いない。



「・・まぁ、化学のアヒルは少しヤバいなーって思いましたよ?でも電柱より良いかなって。」

「良くねぇよ。」


俺様が直々に教えてやってるんだからな!と藤真先生は胸の前で腕を組んだ。

前に私が化学で赤点(でも2ケタだったんだよね!)を取ってしまった時、藤真先生は高野先生にビールを奢らないといけないと言っていたっけ。

今回も私がアヒルを取ったから何か奢らないといけないのだろうかと考えると、ちょっとだけ藤真先生に申し訳ない気持ちが出てきた。



「今回も、高野先生に何か奢らないといけないんですか?」

「あ?・・・・あぁ、違う違う。そんなんじゃねぇよ。」


俺が高野にそう簡単に奢るわけねぇだろ、くだらねぇこと気にすんな。と藤真先生はさも当たり前だというように堂々と呆けた顔をしたから、もう特に気にしないことにした。



「とりあえずお前、夏休み週5で補習だから。」

「・・・・は?」


そうだそうだ、と思い出したように藤真先生は言った。あまりにも普通に言うもんだから一瞬頭の中で当たり前の事だと処理してしまう所だった。

ちゃんとおかしい事だと気づけた私の頭は私の口から呆けた声を出す。

藤真先生はそんな私を見ながらアイスコーヒーを作ろうとしていた。



「残念だけど冷房効かねぇからウチワ忘れんなよ。」

「いやいやいやいや!問題そこじゃなくって・・・!」


必死に藤真先生に両手を振れば、なんだよと首を傾げられる。

何だよじゃない。

確かにあの暑さの中冷房が使えないのは大問題に変わりはない。変わりはないけど鬼畜以外の何物でもない。



「週5って何ですか。普通の学校と変わりませんけども。」

「簡単に言えば化け学に関してお前に夏休みはない。」

「・・・・アヒルだから?」

「アヒルだから。」


よくわかってんじゃねぇかと藤真先生は満足げに頷いた。アヒルを取った数時間前の自分を呪いたい。

違うか、赤点(でも2桁)で喜んでた数日前の自分を呪いたい。通知表を燃やしてやりたい。



「・・・あ、」


無事出来上がったアイスコーヒーをおいしそうに飲む藤真先生の傍で悶えていると私の頭の中にあることが過ぎった。



「他の人もアヒル取ってる人いるんですからその人たちも・・・、」

「ダメ。」

「えぇ・・・!」


一緒にどうですか、という前に発言を否定された。なんと言う否定の早さ、信じられない。

我ながらなんて名案を考え付いたんだろうと褒めようとしていたのに一瞬でぶち壊されてしまった。


何で私ばっかり・・とシュンとすると藤真先生は困ったように笑って私の方を見ていた。



「俺はお前の化学の補習を見るって最初に約束したんだ。」


他の生徒と一緒なんて許さないぜ、と先生は目で訴える。

そんな面倒な事してたまるか、俺は部活に命かける為に先生になったんだよああん?と言う目にしか見えなかった。


そうしか見えなかったけど、それと同時に私の事はちゃんと面倒を見てくれると約束してくれてるようで嬉しかった。



「俺は化学においてはお前を絶対成功させる。だから一緒に頑張れ。」


約束だ、と藤真先生は自信満々に綺麗に笑うものだから。

凄くドキドキしてしまって、それと同時にどんな先生よりも頼りになる存在になってしまって。


私が頑張るのに一緒に頑張れ、なんて言ってくれるこの先生にちょっとだけ持ってはいけない感情が芽生えてしまった気がした。


「はい。」


その感情を一生懸命打ち消すように、私は精一杯先生に笑いかけた。




きみとぼくとの約束

(高野の家から扇風機でも盗ってくるか。)
(大賛成!)

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