宗ちゃんとケンカをした。
原因は忘れた。くだらない事だったと思う。
けど怒りと呆れを含んだ宗ちゃんのため息にどうしようもなく悲しくなって「大嫌い」と大声で叫んで逃げてしまったことは確かだ。
「なまえ先輩、神さんと仲直りしましょうよ。」
「・・・・・・・。」
「きっと神さんももう怒ってませんよ!」
「・・・・怒ってるよ。」
宗ちゃんとケンカをして1週間が経ったある日。後輩のノブ君が私のとこにやってきた。
未だに会話すらできてない私たちを見かねてやってきた彼は、どうやら私と宗ちゃんを仲直りさせたいらしい。
「大丈夫ですよ、早く謝っちゃいましょう?(そうしないと部活の時の神さん超怖ぇんだよ・・・・!)」
「謝るタイミング、もう逃しちゃったし・・・。」
「タイミングなんていらないッスよ!」
気合いです、気合い!とノブ君は必死に私を説得する。
ノブ君よ、彼に気合ごときで勝てるとでも思っているのかい?謝る前に「何でも気合いで出来たら苦労しないんだよ。」って瞬殺されるのがオチだよ。
自分の予想があまりにもリアルすぎてため息が出た。
「でもケンカなんて今回が初めてじゃないでしょう?」
「そうだけど・・・。」
「なら、」
「じゃあ、ノブ君が、彼女さんに・・・・っ、」
仲直りしたい、ごめんなさいって言いたい。
ノブ君に励ましてもらっていたら、その感情が押し寄せてきた。
だけどその感情とは逆に悲しい気持ちも押し寄せてきて胸が痛くなる。
ノブ君を困らせたいわけじゃないのに言葉に嗚咽も混じってしまった。
「彼女さんに大嫌いな、んて言われたら、・・・・っ許せる?」
1週間前のケンカしたあの日に枯れたと思っていた涙が零れた。
涙を流す私を見てノブ君は慌てている。
迷惑がかかるから泣き止もうと思うけど止まらない。
あの時もそうだったけど、普段は滅多に泣かないから涙の止め方がわからなかった。
「なまえさん!あぁ、ちょっと泣かな・・・!」
「ちょっと、うちの子勝手に泣かさないでくれる?」
久しぶりに聞いた声に肩を震わせた。
その声がする方に視線を向ける余裕が無くて、体ばかりが動く。
涙を止めて、止まらなくても早くこの場から逃げたい。
けれど、立ち上がって逃げようとしたのに願い虚しく右手を掴まれてしまった。
「っ・・宗ちゃん、」
「逃げないでよ。」
「だって・・・・!や・・・、」
「嫌じゃない。逃げるなんて許さない。」
掴まれた手を思いっきり引っ張られて無理矢理宗ちゃんの方を向かされる。
そして宗ちゃんの大きな両手のひらが私の両の頬を包み込んだ。
「まったく。何なのこの状況。珍しく俺も言いすぎたと思って教室まで謝りに行ったのになまえはノブと一緒にどっか行ったって言われるし、探してみればこんな薄暗い体育館裏で2人きり。しかもなまえはマジ泣き。」
視界が涙で歪んで表情が見えなかったけれど、宗ちゃんは自分の後ろにいるノブ君の方を見たのはわかった。
同じくノブ君の表情もわからなかったけど、小刻みに震えているのだけはわかった。
「でも今の状況は後回し。・・・・ごめん、なまえ。あの時は俺が悪かった、言いすぎた。」
ノブ君の方を向いていた顔をこっちに戻して屈んで視線を合わせてくれる。
頬を優しくなだめる様に撫でてくれる宗ちゃんの手はあたたかい。
久しぶりに感じるその温度にまた涙が出た。
「ごめ、・・ごめんな、さい・・・・っ。大嫌いな、んて思、ってない・・・!」
「うん。」
「そ、なこと、・・・・ちょっとも、思ってないよ・・・!」
「うん。」
わかってる
そう言われた瞬間に両頬にあった手が離されて、ぎゅっと強く抱きしめられる。
恐る恐る手を伸ばして、そしてぎゅっと自分も抱きしめ返す。
抱きしめてくれていた宗ちゃんの片腕が離されて、私の顎に添えられる。
次にそっと宗ちゃんの少し冷たい唇が私の唇に触れたと思うと、宗ちゃんは満足げににっこり笑っていた。
ペロリと宗ちゃんの舌で私の唇を舐めたあと、その行為をもっと深くした。
埋もれたトラジック・キス
(ちょ、2人とも!お、俺の存在!俺の存在忘れないで!) (あぁ、まだいたの、ノブ。邪魔だよ。) (そんな!俺頑張ったのに!)
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