人生とは、残酷なものだ。




「やっぱお前阿呆だな。」

「・・・・・・・・。」



藤真先生の一言は当たりすぎたので言い返せなかった。

私は学期末の化学のテストで見事に赤点を取ってしまったのだ。


高野先生は泣いていた。



「高野はな、お前の点数を楽しみにしながら学期末テストを作ってたんだよ。いつもは一桁だけど、今回は半分以上くらい取ってくれるかな、って。」

「で、でも今回もビリでしたけど、なんと28点・・・・、二桁・・・・!」

「黙れ。」

「うっす・・・・・。」


放課後、いつものように私は藤真先生と一緒に化学準備室で化学の強化補習をしていた。

・・・・私本当にこんなんで受験できるんだろうかと超不安である。



「ぶっちゃけ俺は本当ならお前の点数はどうでもいいんだよ。でも今回はどうでも良くない。それは何故か。みょうじ、20字以内で言ってみろ。」

「ふ、藤真先生に教えてもらっているのに赤点を取ったから高野先生から見たら藤真先生が私に真面目に化学を教えてないように思えてしまう・・・・から?」

「正解。でも字数オーバー。」

「(20字は無理だって・・・・!)」

「あーあ、俺今日の夜罰として高野にビール奢らなきゃいけねぇ・・・・。」



藤真先生は背もたれに大きく仰け反った。


毎日のようにやってる化学。確かに藤真先生のおかげでいくらかマシにはなった。

でも、毎日同じような問題を繰り返しているのにどうしてもほとんど頭の中に留まってくれないのだ。



「普通の奴と何が違うんだろうな・・・・。」

「え、その言い方だと私がまるで普通じゃないみたいじゃないですか。」

「え、そう言ったつもりなんだけど。」

「・・・・そうですか。」


藤真先生は普通の体制に戻ると自分でいれたインスタントコーヒーを口に含む。

いつもブラックの先生なのに、今日は何故かミルクと砂糖を入れていた。私のせいで脳に糖分が足りなくなったのかしら!と思う。



「い、いいですよ?普通の人と同じような教え方で。」

「大馬鹿野郎。皆が皆同じ勉強の仕方で勉強できるようになるなんてことはねーんだぞ。」


藤真先生はマグカップを置いた。



「本当はな、個人塾みたいに一人一人に合った勉強をしてやれれば一番良いんだ。でもそんなこと普段の学校の授業ではできねーから団体、つまりクラス単位で勉強してるわけ。」

藤真真先生は腕を組んで続ける。



「もっと深いこと言えばさ、みょうじ。お前、さっき化学のテストの順位とか気にしてたろ。」

「まぁ、それは気にしますけど・・・・。」

「だろ。でもな、みょうじ。順位をつければ1位がいるし、必然的にビリもいる。だからそんなんはぶっちゃけどうでも良いんだよ。」


ホントは順位つけるなんてナンセンスなんだぜ、と藤真先生は胸ポケットから赤ペンを取り出した。

そして私のノートを覗いて赤ペンで正解を端っこに丁寧に書き綴る。

少し乱暴で、少し汚い。でもどこか綺麗な男の人特有の字。



「話はズレたけど、みょうじにもみょうじにあった勉強法がある。だからもう少しだけ考えるぞ。」


お前に合った最善の方法をな



藤真先生は私の頭をくしゃくしゃと撫でた。


髪形が崩れたって、そんなのはもうどうでも良い気分になった。

呆れながら、罵りながらも、ちゃんと藤真先生は私を見てくれている。ちゃんと励ましてくれる。


先生になりたかったわけじゃない。

前に先生はそう言っていたけど、この人ほど先生らしい先生は居ないんじゃないだろうか。


せめて最後、私は勝利を手にするために、先生に恩返しできるように、この人と頑張ろう。


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相良は高3の時に個人的に補習をしてもらっていた先生に「わからないところがわかりません」と言い放って頭を抱えさせました。

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