夜、いきなりアイスを食べたい衝動に駆られた。
さっぱりしたフルーツ系のアイスが食べたい。オレンジアイスとか。
そう思った瞬間にすっからかんに等しい財布を持って家を出た。
出る間際にお母さんが牛乳を買ってきて、と言っていた声は聞こえなかったことにしよう。だって牛乳買ったらアイス買えないくらいお金ないし。
にしても・・・・
「あー・・・。頭が痛い。」
二日酔いでやばいぜ、見たいな声を出していますが違います。酒ではありません。強いて言うなら化学のやりすぎで二日酔いな感じです。
「藤真先生意外にスパルタだったし・・・・。」
甘く見てたわ、とコンビニに入る手前で夕空を仰ぐ。
17族は一生忘れることはないだろう。
ていうかもう頭の中パンパンです、藤真先生。化学が無理矢理侵略してきたせいで、せっかく覚えた英単語が飛んでいきました。明日テストなのに。
そんなことを考えながらコンビニ独特のベルの音に包まれながら明るい光の中へ入った。
「えっと、アイスアイス・・・・。」
入り口付近にあるアイスボックスの傍まで行って、ガラスの戸を開かずに中をチェックする。
バニラ、チョコ、イチゴ、抹茶、アーモンド、ソーダ、ミックス・・・・。
・・・・・・あれ、オレンジ無いぞ、オレンジ。どこいったんだ私のオレンジアイス。
「俺はストロベリーがいいと思う。」
「確かにストロベリーも美味しそうだし大好きなんですけど、今は濃厚なイチゴアイスよりさっぱりしたオレンジが・・・・、・・・・・・って、え?」
背後からかけられた声に思わず返答してしまったけど聞き覚えのありすぎる声に勢いよく振り返る。
そこにはやっぱり、
「ふ、藤真先生・・・!」
「よ。」
片手に買おうとしていると見られる真新しい雑誌とビールを持っている藤真先生がそこにいた。
「な、何してんですか・・・。」
財布を持っている手とは逆の指を藤真先生の方に指す。
というかヨレヨレのジーパンにシャツにパーカーという格好をこの人に見られたくなかった。・・・・まぁ先生も私とあまり変わりの無い格好だけど。
それでもカッコよく見えてしまうのはやっぱり顔立ちとスタイルのせいだろうか。悔しい。
「何してんだはこっちだ。今何時だと思ってんだ。」
「え、は、八時・・・。」
「正解。女で一人で出歩いて良い時間じゃねぇ。」
雑誌を丸めて私の頭をパコンッと叩く。
おいおい先生。それまだ買ってないでしょう。
「いてて。だってアイスが私を呼んで・・・・。というか何で藤真先生がここに・・・。」
「呼んでねー。ぜって呼ばねー。それにここ俺の地元だし。」
「マジ?」
「大マジだ。」
まったく、と藤真先生はため息をついて私にシッシッと手で退ける。
藤真先生もアイス食べたいのかな、なんて考えたら少し藤真先生が可愛く見えた。
「チョコと・・・・ストロベリーっと。」
「え、先生一人で二つもアイス食べるんですか?」
「ばかやろー。一個はお前の。」
「え、私の?」
ぽけーっと自分の方を自分で指差せば藤真先生はガラスの戸を閉めながら頷く。
「化学頑張ったご褒美。」
味はお前が遅い時間に出歩いてる罰として選ばせない、と藤真先生特有のウィンク付きのイタズラっぽい笑顔を向けた。
「オレンジが良かったな。」
「バーカ、アイスはイチゴかチョコって決まってんだよ。」
雑誌とビールとチョコアイスとストロベリーアイスを買って外に出ればすぐに渡してくれたストロベリーアイス。
藤真先生に危ないからと家の前まで贈ってもらう途中で二人で食べながら歩いていた。
「それにしてもさっきなんの雑誌買ったんですか?大人向けの雑誌?」
「ちげーよ、週刊バスケ!」
エロ本なら売るほどあるわ!と藤真先生は大きな声を放つ。お願いだから夜中の静かな通りでそんな事を大声出して言わないでくださいと心の中で泣いた。
「・・・・まぁ藤真先生なら彼女もいるんでしょうしね。大人雑誌なんていりませんか。」
アイスを頬張りながら言うと藤真先生は目をパチクリしながら私を見た。
「俺彼女いないけど。」
「・・・・マジ?」
「おう。」
いるわけねーだろバーカ、なんて藤真先生もアイスを口に運ぶ。
馬鹿まで言われるのは心外だけど。
・・・・藤真先生彼女いないのか。ふぅん、凄い事聞いた。これが学校中に広まったら女生徒発狂だな、色んな意味で。
そんなことを1人で考えていたら、百面相の顔をしていたらしくて横から頭を小突かれた。
「そういうわけで、勉強頑張ったらまたアイス奢ってやるよ。」
ストロベリー限定な、と藤真先生は優しくきれいに笑った。
そういうわけで、の意味は聞く事はしなかった。
魅惑のストロベリー
(あ、牛乳買えた・・・) (は?牛乳?) (まぁいっか。)
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