今日は珍しく私のクラスで紳一とご飯を食べた。

いつもは2人でとかノブ達と一緒に屋上や中庭で食べるんだけど生憎の雨で外には出られなかったのだ。

私は購買でパンとジュースを買ってきて私は自分の席に、紳一は私の前の奴の席を借りて一緒に食べている。紳一のお母さんが作るお弁当はすごく大きい。それにすごくおいしそうだ。


じーっと紳一のお弁当を眺めていたら、私の視線の先に気づいたのか紳一は卵焼きを1つお箸で持って私の口元へ差し出した。



「・・いいの?」

「食べたいんだろ?」


ほら、と差し出してくれた卵焼き。嬉しくてあーん、と口をあけて食べさせてもらった。

甘いタイプの卵焼きで口の中いっぱいにふんわりとした甘さが広がる。紳一のお母さんは料理が上手いんだなぁなんて思いながらその味を噛み締めた。



「美味しいよ!」

「そうか。」


よかった、と紳一は煮物を口へ運んだ。私もクリームパンに噛り付く。

しばらくして食べ終えたお弁当に蓋をしながら紳一は思い出したように口を開いた。



「そういえばなまえは今日の放課後何するんだ?」

「そうだなぁー・・雨だしなー・・。コンビニ寄って飴とガム買って帰るよ。」

「前から言おう言おうと思ってたんだが、お前虫歯になるぞ。」

「えぇーでもやめらんないしさー。」



飴とガムやめてイライラしてノブ虐めるのと飴を舐め続けるのどっちがいい?と聞けば即答で食べ続けていいと許可をもらえた。

いいなぁ、ノブ。紳一に大切にされてるなぁ。しょうがないよね、ノブ可愛いもん。弟に超ほしい。毎日虐めてやりたい。

いいないいなぁーと言っていたら紳一は片眉を下げてクスリと笑って私の頭を撫でてくれる。うん、やっぱ好きだ。


上機嫌にニコニコしていると、紳一は壁に掛けられた時計を見てお弁当を片す。私もチラリと時計を見ればあと5分で予鈴がなる時間だった。

5時間目なんだっけ・・。あ、リッキーの古文じゃん、どうしよう眠い絶対寝る。

怒られるかなぁ・・なんて考えていたら紳一の声が降ってきた。



「俺はもう教室戻るけど‥次の授業、寝るなよ?」

「・・・・がんばる。」


たぶん、と小さく付け加えたけど、紳一は私の頭をポンポン、と軽く叩いて教室から出て行った。

やっぱ紳一すごいなぁ、なんかもう後ろ姿は下手したらお父さんだわ。なんて1人で思ったら笑ってしまった。私もゴミを捨てようと立ち上がる。

燃えないゴミに袋を捨てて、飲み物が入っていたパックを燃えるごみに捨てて。


そのまま自分の席に戻ろうとした時だった。

全てが崩れ始めたのは。




「牧君が、彼氏になったからって調子に乗らないでよ。」

「・・・・は?」


一瞬自分が声をかけられたなんて思わなかったけど、「牧君」と「彼氏」の単語で自分に投げられた言葉ということが理解できた。

誰だよ、と思って声がした方を見ると3人くらいでお弁当を食べている女子のグループがあった。2人は「やめなよ」と言って止めているけど、もう1人は私を睨んでいる。

こいつか、と思って見ながら何も言わないでいると、そいつはまた口を開いた。



「牧君はみんなの憧れで、‥それなのにいきなりみょうじさんと付き合うことになったって聞いたときは皆ビックリしたんだから。」

「・・でしょうね。」


私もビックリだもん、と言えばその女の子の眉間のしわは深くなった。

女の子も立ち上がって、私の方へ向かってくる。そして彼女は続けた。



「みょうじさんみたいな・・先生も手を焼くくらいの問題児が海南一の優等生と付き合うなんて、おかしい。」



周りにいるクラスメイトが怯えた視線をこちらへ送り始める。大方私がコイツに手を出すかもしれないと怯えているんだろう。そんな教室は少しガヤガヤしていて、それでも妙に静かに感じる。

はぁ、と1つため息をついて私はギッと目の前のクラスメイトを睨んだ。



「別に、クラスメイトを殴ったりした事なんてないでしょ。」

「態度の問題よ!」


どうやらあっちの気持ちはヒートアップしてるらしくて、私の睨みは効かなかった。ちょっとだけそのことに関心も覚えたけど、だんだん苛立ちの方が大きくなってきていて自分を制御しようと必死だった。

今まで話したこともないやつに、どうしてここまで言われないといけないのか。話の突っかかり方からして明らかにこいつが紳一を好いているってことはわかる。紳一を思うが故の私に対する敵視とか嫉妬ってやつなんだと思う。


クラスメイトにとって、私という存在がどういう位置にいるのか私自身が一番わかってる。

このクラスに普通に居られるのだって、クラスは違っても紳一という存在がいてくれるからだってこともわかってる。

でも私はクラスに居たいから紳一の存在に頼る為に付き合ったんじゃない。紳一が好きだから、大好きだから付き合ってるんだ。



「今までみんなに怖い思いをさせたかもしれない。‥‥けど、変わる努力は、してる。」

「今まで皆に酷い事してきたくせに、牧君と付き合えばそれが全部帳消しになると思ってるの?」


ドキン、と大きく胸が鳴った。

確信を突かれて悔しいのと、それでも今の私を受け入れてほしいっていう我が儘な気持ちとすべてが混ざり合う。

落ちつけ落ちつけ落ちつけ、ここで私が暴れたら、今まで築き上げたものがまた消える。


紳一にも、迷惑が、かかる‥‥のに、




「牧君がみょうじさんと一緒にいるのが奇跡なんだからね!」


その瞬間、教室に乾いた音が響き渡った。

自分の手のひらもジィン、と痛い。キレた。キレてしまった。でも普通の女の子だったからグーじゃなくてパーの平手打ちにしていたことは評価してほしい。

でも、平手打ちだけじゃ怒りが収まらなかった。



「わかってんだよ!それくらい!」


お前なんかに言われなくたって!と叫んだ。

平手打ちをした手は無意識に動いてふざけた事を言い放った女子の胸倉を掴んでいた。女の子は恐怖に目を怯えさせて私を見る。

周りも「落ち着けよ!」とか「キャー!」とか喚いてばかりでうるさい。


うるさいうるさいうるさい‥!


全部、私が悪いのか。

心を入れ替えて、普通に生活しようと思っても、今までで築き上げてしまった物が大きすぎて誰も今の私を受け入れてくれないのか。



「あ、たしが、紳一と吊り合わないことくらい、っわかってんだよ!」


お前に言われなくたって!と胸倉を掴んでいたシャツを思いっきり乱暴に放してやった。

ちょっと誰か牧呼んでこい!というクラスメイトの声が聞こえて、我に返った私はその場をダッシュで逃げた。




ほうかいのおと

(また、自分で壊してしまった)

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ベッタベタな女の子同士の嫉妬の喧嘩を書きたかった。ごめん、牧。頑張れ牧。
ここから3話連続のお話になります。


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