「おねーさんちょっと時間あります?」



しまった、やべぇどうしよう。


その言葉が脳内に一瞬で浮かび上がった。

学校が遅く終わってしまい、それに比例していつもよりも帰ってくる時間が遅くなってしまった。もう少しで日付も変わってしまうというのにまだ地元の駅だ。

急いで帰ってお風呂入って寝ようと改札から出た瞬間、後ろから声をかけられた。


確かに前に「人生1度でいいからナンパとかされてみたいな」とは思ったし「彼氏いるいない云々じゃなくてナンパされるイコール、少なからず魅力があるってことでしょ」とかも友達に言ったりもしたよ。したけどさ。

マッチョ+日焼け+ピアスいっぱい+パーマ+茶髪+リーゼントの人にナンパされたいなんて1回も思ったことない。言ったこともない。

人生初めてナンパされたのに。いきなりレベルが高すぎる。どうすんのこれ、どうやって逃げればいいの。逃げられるの?



「あのいやちょっと今時間なくてですね・・!」

「ちょっとでいいんですよー。」


時間無い攻撃が通じない・・!

どうしようどうしようと内心すごく焦った。

ナンパされなれてる人ならいいよ!けど私さっきも言ったけどナンパされたの初めてなんだよ!どうしたらいいの!

ない頭を必死にフル回転させながら私は言葉を振り絞った。



「バスの時間が・・、」

「こんな時間にバスなんて動いてたっけ?」


しまったもう本当自分を殴り飛ばしたい、最終バス30分前に出てるよ・・!


ナンパしてきたマッチョなお兄さんは焦る私を見ながらニコニコしている。私も雰囲気を和ますために引きつりながらも「えへへ」と笑ってみた。



「バスもないみたいだし、そこの居酒屋で一杯どうですか。」

「いやー・・でもちょっと家に帰らないといけないんで・・!」

「でもバスないんでしょ?」


痛いところをついてくる。

私本当は駅まで自転車なんですよ!いつでも帰れるのよ!でもバスとか言った手前「実は自転車なんです」ともすごく言いづらい。

「行こうよ」とさらに言われてしまい、思わず一歩下がってしまった。

どうしようどうしよう。



「なまえごめん待ったー?」


このままじゃ素直に帰れそうにない、私の人生最大のピンチ・・!

そう心の中で泣きそうになった時、私の後ろから大好きな人の声が聞こえた。

ふわりと私の右手に温かい温度が伝わってくる。



「ごめんねー、ちょっと家出るの遅くなっちゃってさ。」


横に来て、にっこりと私に微笑んでくれているのは彰だ。

こんな時間にどうしたの、と聞きたいけど一刻も早くこの状況から抜け出したくて私は会話を合わせる。



「だ、大丈夫だよ!」

「そっかそっか。あれ、この人知り合い?」


笑みを崩さず彰が声をかけてきたお兄さんを見ると、そのお兄さんはバツが悪そうにこの場を去って行ってしまった。

私はホッとして思わず息をついてしまった。そんな私の様子に気づいた彰は私の手を握りながらくすくす笑う。



「人生初ナンパ、だったのかな?」

「そうだよ最初からレベル高すぎるよびっくりしたよ・・!」


彰を見ながら一息でそう言えば、彰はひどくおかしそうにお腹を抱えて笑う。

こいつ自分の彼女がナンパされたのに笑うとは・・!怒るよね普通!

俺の女に手を出すな!とか言えとまでは言わないけどなんか結構普通の人って怒るよね!あれ、違うの?!おかしいな!


むーっと彰を睨んだけれど、この人に私の睨みが効かないのはよくわかってる。

むしろ、よしよしと頭を撫でられてしまった。



「それにしてもどうして彰がここにいるの?」


悔しさだかなんなのかわからない感情を抑えて、さっき助けてくれた彰を見た時に1番最初に浮かんだ質問を口にする。

すると彰は「あぁ、」と思い出したように声を出した。



「1時間くらい前にメールしたじゃない。」

「うん、したよ。」

「まだ帰れないーまだ電車の中ー、日付変わるーうあー、ってメール来てたからこの時間に1人で帰るのは危ないなーと思って迎えに来たんだ。」


迎えに来て正解だったね、と彰は腰をかがめて私の顔を覗き込む。

ドキン、と心臓が大きくなって一気に顔が熱くなった。

彰はずるい。私が何をされたら弱いとか、嬉しいとか、全部わかっていてそれをわざとやってくるんだ。

照れる私を見て満足げに彰は笑み、出口へ1歩踏み出し始めた。



「俺の彼女に手を出さないでくれる?とか言ってみたかったけど、それ言ったら余計に絡んでくる人も結構いるし、なまえの前では絶対に穏便に物事を済ませたいからね。」


それに俺喧嘩そんなに強くないしー、なまえの前でそんなカッコ悪いところ見せたくないしー、それだったら俺お得意の脱力攻撃かました方がいい気がするしーとおどける。

私の手を引きながら駅の出口へ進む彰の手をぎゅっと握ると彰は歩む足を止めずに私の方を見て目を細めた。



「これから遅くなるときはちゃんと言って。どんなに遅くなっても駅まで迎えに来るから。」


ね?と笑う彰に再びハートを鷲掴みされた私でした。




my prince
(今日ナンパされた話越野達にしていい?)
(爆笑されるからやめて!)

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実体験。仙道は助けてくれませんでしたが。

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