今日は海南大附属高校の数あるイベントの内の1つ、球技大会の日だった。
種目はバレー、バスケット、サッカー、そして野球(女子の場合はソフトボール)の4つから選べる。牧と神はバレーボール、清田はサッカーを選んだらしい。
自分の所属していない部活を選んで参加するこのイベントは、なまえにとって3年目にして最初で最後の参加だった。
「で、なまえは何やるんだ?」
「バスケ。」
制服を着崩して生活しているなまえのあまり見たことの無い体操着姿をもの珍しそうに見ながら牧が聞けばケロリと答えた。
それを傍で聞いていた神と清田は目を開く。牧も少しだけ驚いたのか一瞬動きが止まった。
「え・・、ルールわかります?」
「ノブ、あたしをナメてんの?」
まっかせなさい!と体育館シューズの紐を結んでなまえは勢い良く立ち上がる。
半袖にハーフパンツ。いつも噛んでいるガムをティッシュに包んでゴミ箱へ投げ捨てるなまえ。てっきりなまえはダルそうに渋々参加すると思っていた牧はそんなやる気満々のなまえを見て笑ってしまった。
「・・何よ。」
「いや、頑張れよ。」
応援してるから、と頭を撫でてやればなまえは幸せそうに笑んだ。
「へへ!じゃあ行って来る!」
見ててね!と大きく手を振ってクラスメイト兼今日の場合はチームメイトの方へなまえは上機嫌に走っていく。そんななまえを見送りながら3人の脳内にはこれからなまえが引き起こすかもしれない色んな最悪なパターンが巡った。
「俺、凄い不安ッス。」
「そういうな、清田。」
「平気でトラベリングして『はぁ?ボール持って3歩歩いたらダメなの?何そのルール』とか言いそうですよね。」
清田の不安そうな声に牧がたしなめると、神はその横でくすくす笑った。その神の発言を聞いた清田と牧は「ありえる・・」と思いながらも何も言わなかった。
そしてなまえのクラスが試合の時間になった。やっぱりなまえ1人だけ目立っていた。
牧紳一が高校バスケ界の神奈川No.1と言われているのならば、なまえは高校喧嘩界の神奈川No.1と言われても過言ではない。
相手のクラスはそんななまえの存在にビクビクしながらも試合前の挨拶を済ませる。そして試合が開始された。
「・・・・あれ、様になってる。」
「ていうか・・、」
「なかなか上手いな。」
3人の心配は試合開始後すぐに打ち砕かれた。
味方から貰ったパスをドリブルでゴール下まで運んで行き、レイアップシュートを何回もキメるのだ。
相手チームもなまえの運動神経には驚いているようだった。必死にボールをカットして自分のチームのボールにしてもすぐになまえにスティールされてしまう。
それに驚いた事に、自分勝手なプレーをしないのだ。ちゃんと味方のクラスメイトにパスを出す。そんななまえに驚いていたクラスメイトもだんだん慣れてきたのか、なまえに頻繁にパスを出すようになっていた。
その試合、なまえの活躍により、大差でなまえのクラスが勝利した。
「どうよ!」
見てた見てた?と試合を終えたなまえは牧たちのもとへ走りよってきた。額を汗でぬらしながら悪戯を終えた子どものような笑顔で牧を見る。
「あぁ、見てた。」
「すごかったッスよなまえさん!」
俺感心通り越して感動しました!と清田は体全体をフルに使って興奮を伝える。そんな清田に「でしょでしょー?!」となまえも体全体を使って喜びを表現した。
「それにしても本当に上手でしたよ。バスケやってたんですか?」
「んーん、紳一が自主練してるところとか見てただけー。」
神の質問に、ぎゅうううっと牧の腕に抱きつきながら嬉しそうに話す。
そんななまえを牧はとっても優しく微笑みながら頭を撫でた。清田も神もそんな2人を見てつられて笑う。
「バカと天才は紙一重って言いますもんね!」
「ノブ、シメるわよ。」
清田の失言にワウ!と犬のように牙を剥くと、清田は神の後ろへ逃げた。
牧は冗談だとわかっていても一応なまえを静止させる。
なまえは今までの自分の過ちを乗り越えてここまで素直な自分に戻れた。
見た目よりも、心の方がもっと強い。それを牧はわかっていた。それを今日、きっとクラスメイト、少なくともチームメイトだった彼女たちはわかってくれたに違いない。
彼女たちと友達になれるはずだと牧は心の中で静かに安堵していた。
「紳一紳一。」
「なんだ?」
「ご褒美ほしいなぁ・・。」
頑張ったからなぁ・・となまえは珍しくねだる。
そんななまえに牧は「そうだなぁ」と漏らしながら持っていたタオルで汗を拭いてやったあと、少しだけ悪戯っぽく笑いながら、牧はなまえの頬に軽いキスを落とした。
ご褒美はいかがですか
(ま、牧さん!ここ体育館!) (大丈夫だよノブ、牧さんの確信犯だから。)
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