放課後、いつも通り部活動の時間は始まった。バスケ部ももちろん、他の部活の熱気に負けないほどに一生懸命練習をしていた。
そして練習も終わり、掃除や片付けに取り掛かる前に一休みをして汗を拭いている時だった。清田信長の悲鳴が聞こえてきたのは。
「ぎゃあああああ!」
あまりにも大きな悲鳴にビクッ!と体育館にいる生徒は体を震わせた。バスケ部部長の牧もその内の1人だった。
「何騒いでんだアイツは・・。」
「信長は本当に元気ですよね。」
あれだけ声出して練習した後によく出たよあの声が、と牧の傍にいた神は笑った。
ダダダダダダダ!とダッシュしてくる足音が聞こえたと思えば、外の水道に顔を洗いに行っていた清田が血相を抱えて走ってきた。
「清田、他の部活の奴らもいるんだ、ちょっとは周りのことを考え・・、」
「そんなこと言ってる場合じゃないっすよ牧さん!なまえさんが!」
「・・・なまえ?」
帰ったはずじゃ・・?と牧は一瞬思ったがそれよりも口が動いていた。
「なまえはどこだ?」
「ここ。」
少しだけ辛そうななまえの声が体育館に響いた。声がした方を見れば、頬が傷つき、傷めたらしい腹を右手で抱えたなまえがいた。
それを見た清田はまた叫んでなまえに駆け寄る。
「ちょ!応急箱すぐ持ってくから外で座って待っててくださいって言ったじゃないっすか!」
「いやだって歩けるから・・。」
私が来た方が早いかなって、となまえは笑った。そしてすぐ罰が悪そうな顔をして牧の傍へと近寄る。
「ごめん、紳一。こんな怪我してるまま体育館に来ちゃって。」
「何言ってるんだ、そんなこと気にしなくていい。」
早くここ座れ、と牧はなまえの肩を持って床へ座らせた。
牧は清田がダッシュで持ってきた救急箱を開けて消毒液でなまえの頬の傷を消毒する。
「痛い痛い痛い!」
「怪我をしたお前が悪い。」
「だって囲まれたらさすがに逃げ切れなくて・・・。」
しょうがないから病院送りにしてやったんだ、とガッツポーズをしながら誇らしげになまえは言った。その発言に清田は顔を青くし、神は苦笑いし、他の部員は頭を抱えていた。
牧だけはなまえの発言に顔色1つ変えずにペラリとなまえの制服の裾を上げる。
「うわっ!ちょ!なに?!」
「腹も痛めてるんだろ?」
「だからって何の許可も無くめくる普通?!」
おなかは平気だよ!となまえは顔を赤くしながらめくられた制服のシャツを急いで直した。
牧の後ろを見れば、なまえの腹を見てしまった清田たちが顔を真っ赤にしてしまっている。
清田にいたっては「俺は何も!なんも見てないっす!なまえさんの意外と白くて女らしい腹なんか見てないっす!」と顔を抑えながら叫んでいたのを「落ち着け!」と神に取り押さえられていた。
牧もそんな部員の反応に苦笑いしながらも、なまえの腹を心配そうに擦る。そんな牧の様子になまえは下唇を噛んだ。
「喧嘩して、ごめん。」
もうできるだけしない、とすぐに困ったような、寂しそうな表情を浮かべてなまえは牧に謝った。牧はそんななまえを見て一瞬目を見開くと、すぐ困ったように片眉を下げてすこしだけ口端を上げる。
「別に俺に謝らなくていい。でも前から言ってるが、もう少しだけ自分を大事にしろ。」
体が持たないぞ、と大き目の絆創膏を頬に貼ってやり、頭を撫でてやった。
絆創膏をなぞりながらなまえは「えへへ」と笑ってとっても幸せそうだ。
「マジ俺、牧さんのこと本当に尊敬するっす。」
「奇遇だね、信長。俺もそう思ったよ。」
落ち着いた清田と神は2人に聞こえないように小声でしゃべり、そして今度はちゃんと2人に聞こえるような声で問いかける。
「それにしても、なまえさん。なんで喧嘩ふっかけられたんスか?」
「イイコになった私が面白くないんでしょ。」
「(イイコになった・・?)」
「(なった・・・?!)」
「何よ、神くん、ノブ。文句でもあんの。」
なったでしょうよ十分!と言うなまえの発言に2人は苦笑いするしかなかった。
「まぁでも・・ちょっと疲れちゃった・・、紳一が着替えてる間ちょっと寝かせて。」
「あぁ。」
「体育館の端っこで寝てるから起こしてね。それと・・・、」
手当てしてくれて、ありがとう
顔を赤くしながらお礼を言ってなまえは体育館の端に歩いていった。
着実な一歩を歩む
(なまえ、帰るぞ。) (んー・・あと5分・・・・、) (・・・・しょうがないな。)
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