「おう!やっぱまたボッチか!」



わかってたけどね!と1人花壇の前で騒いだ。放課後部活をしている野球部やサッカー部の声の中に私の叫びは虚しく消える。


今日は私がクラス花壇の水遣りの日なのだ。でも私1人じゃない。出席番号順で強制的に相方に決まった三井寿がいるはずなのにアイツは来なかった。

最初に叫んだようにわかっていたけどね、来ない可能性の方が高い事くらい。ちなみに来ないと思ったのは学校にすら最近まで来ていなかったから。

でもここ数日、三井寿は改心してロングだった髪も切り、いつの間にか前歯もあって、元々入っていたらしいバスケ部に戻っていた。バスケだけじゃない、ちゃんと毎日学校に来るようになって人当たりも良くなっていた。

だから私は少しだけ来る事に期待をしていたのだ。



「・・・・はぁ。」


騒いだって花壇の水遣り作業が終わるわけじゃないので諦めてホースを手に取った。蛇口を捻って、ホースの先を少し指先で圧力をかけて潰せば少し遠くの方まで水が飛んでいってくれる。そういえば先生に雑草も抜くように頼まれたんだっけ。

嫌な事を思い出して一瞬で脱力した。だれだ、クラスごとに花壇使って野菜作ろうって言い出した奴。今すぐ私の前に来て土下座をしていただきたい。それか私の代わりにこの雑草を抜け。

・・脳内で暴れても雑草抜きが終わるわけじゃないので、再び自分自身を制止させた時だった。



「わるい!遅くなった!」


来るはずがないと思っていた、三井寿が私の目の前に現れたのは。

彼は1度部活に行って着替えていたらしいのだが、花壇の水遣り当番だということを思い出して赤木君に許可を貰ってからダッシュで来てくれたらしい。

顔の前で両手を合わせて「ごめん!」と言ってくるので何も言えなかった。



「だ、大丈夫・・。」

「でももう水やり終わっちまったろ。悪かったな。」

「まだ草抜き残ってるから!」


仕事はあるよ!と何故か必死になって言えば、そんな私を見て三井寿は笑った。



「なんで必死になってんだよ。」

「私にもわからない。」


本当に自分が何故焦っているのかわからないので、ただ呆然としてそう言うと「そっか」と三井寿はしゃがんで草をむしり始める。

なに植えてんの?と聞かれたので、トマトときゅうりと答えた。へー、いいじゃんウマそう、とトマトの葉をぺらぺら触っている。

あんまりにも普通の会話をしすぎていて自分の中で軽くパニックが起こっていた。いいのか、あんな暴力沙汰起こした奴がこんな普通の人になっていて。

そう思ってしまったせいか、私の口は勝手に開いた。



「私、三井君は来ないと思ってたよ。」

「はぁ?なんで。」

「だって今までが、さ。」


今の発言に自分自身を賞賛した。いくら改心したとは言え、怖がりもせずあんな事を言って私は命があるのだろうか。でも本当の事を言ったまでだ。1度もこういう係りの仕事に来た事がなかったのは確かなんだから。

一種の嫌味だって自分ではわかってる。嫌なやつだってこともわかってる。でもそう簡単に私は受け入れられないのだ。三井寿が、「いい人」になってしまったことを。



「あぁ、あれはおれ自身も凄く無駄な時間を過ごしちまったと思ってる。」


安西先生がいなけりゃ、今の俺は無いな。もうこの学校にすらいないかもな、と三井寿は照れるように笑った。

虫のいい話かもしれないけど、ちゃんと安西先生にバスケを通して恩返しがしたい。こういう係りから何から、今まで迷惑をかけた奴らにもちゃんと謝って、わかってもらいたい。

三井寿は雑草を抜きながら静かに私に語ってくれた。

そして私は三井寿の素直すぎる発言に、自分の嫌な部分ばかりが見えてしまって、その上その発言や行動に恥ずかしさも覚えてしまって。



「・・ごめん。」

「なんで謝るんだよ。」

「今のは無神経だったから。」


むしっていた雑草を塵取りに入れながら恐る恐る三井寿を見れば、三井寿はとっても優しく笑っていた。無神経な事を言っても、もうこの男は怒りに任せて暴れたりしない。

自分の心の狭さに自嘲気味に笑うと、三井寿は口を開く。


「今まで悪かったな。」


ありがとう


大嫌いなアイツが、大好きになったのは、このときからだった。



大嫌いなアイツ

(おはよー、寿!)
(お、なまえ。はよー。)

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