「17族は?」

「えっと、・・・・F(フッ素)・・・・・フッ素・・・フッ素・・・。」

「何お前17族覚えてねぇの?」

「す、すいませ・・・・!」



あれ、なんだ、この状況。


さっきまで私は一体何をしていたっけ。

藤真先生に補習のお断りをして、お辞儀して、帰ろうとして、そんで・・・・





「逃がさねーぞ、みょうじ。」




・・・・。




「思い出した!」

「おー、マジか。17族思い出してくれたか、言ってみろ。」

「違います!17族じゃなくてちょっと前の出来事を思い出したんです!逃がさないってなんですか!」

「補習から逃がさない。」

「そうじゃなくて・・・・。」



机を挟んで私の目の前に座って教科書を開いている藤真先生は、至極当然のようににっこりと笑んだ。


まず明らかに今までとの態度が違う。言葉遣いが違う。

優しい口調だったはずの藤真先生の口調がいつのまにか俺様口調というか、思いっきり砕けた口調になっている。




「どうしたんですか、先生・・・・。」


あまりの違いに私は疑問を問いかけた。

すると藤真先生は座っている椅子の背に少しだけ体重をかけながら頭を掻く。



「んー?オフモードになっただけ。」


この学校じゃ花形と高野しか知らない、本当の、俺。

そう頬杖をつきながらにやりと妖しく笑った。


やっぱり人気No.1教師なだけあってこの表情も様になる。



「なんで私にそんな本性を見せたんですか。」

「だって補習するのに放課後まで先生モードでいたくねぇもん。」


通常モードの俺に戻りたいんだよね、と藤真先生はもう一方の肘もついて両手で頬杖をついた。



女子生徒にきゃーきゃーと騒がれる毎日は苦痛でしょうがない。

それでも周りから信頼を得るためにはやるしかない。


少し面倒くさそうに、そしてどこか寂しそうに藤真先生は呟いた。



先生なのに、投げやりになる藤真先生。

先生モードと通常モードを使い分ける藤真先生。


これじゃあまるで先生になりたくなかったみたいだ。




「先生は、・・・・先生になりたくてなったんじゃないんですか。」

「俺は先生になりたかったんじゃない。」

「じゃあ、なん・・・・!」

「全国へ行くため。」



藤真先生は静かに強く言い放った。


視線も今までに見たことが無いくらいで、目を逸らせないくらい。




「ぜん、こく・・・・?」

「そう。バスケ部を全国へ必ず行かせると同時に、地区大会優勝という形で全国に行かせるために、戻ってきた。」



頬杖をついていた腕を組んで、さっきとは違う真剣な目つきで言った。




「俺が翔陽に生徒としていた頃、俺は3年間全て他の学校の怪物の存在のせいで地区大会で優勝できなかったんだ。」


2位通過で全国へは行けたんだけどな、と藤真先生は悲しそうに笑った。


俺達が弱かった訳じゃない。

優勝候補校と言われていた中、毎年あと一歩のところで負けてしまう。

それでもまともな監督が居ないハンデを負いながら、ひたすら練習し続けた。



地区で優勝する為に、全国に行くために、全国で優勝する為に。

翔陽の名を全国に知らしめるために。



俺達の代は俺が選手兼監督になって全国を狙った。


それでも・・・・




「俺達はその年、2位どころか全国へ行けなかった。」


しかもノーマーク校に負け、県内ベスト8。

宿敵の海南と試合すらできなかった。

だからその屈辱を晴らすために、今まで居なかったバスケ部の監督になるために




「俺は戻ってきた。」




揺るぎない姿勢。

さっきまでの藤真先生も見たことはなかったけど、こんな藤真先生も見たことがない。

こんな熱い先生はいつもの藤真先生からは検討もつかない。


持っていたシャーペンを、思わず強く握った。


そんな私の仕草を見て、藤真先生は、ふっと笑った。



「安心しろよ。いくら先生になりたいわけじゃなかったとは言え、結果的にこういう風に化学と生物の担当教師になっちまったんだ。ちゃんと責任もって補習はする。」



だから頑張れ。


そう藤真先生は柔らかく笑って私の頭をなでた。

真っ赤になりそうな顔を伏せるので必死な自分がいた。



藤真先生と放課後に2人きりだったら、他の女子生徒になんて言われるかわからない。


それでも、この人に何かを教わりたいって思う気持ちが膨らみ始めていた。



「あ、みょうじ。他の奴らに俺の本性言うなよ。言ったら評定1な。」

「・・そんなバカな!職権乱用!」

「黙れば。じゃ、続きやるか。」

「・・・はい。」



藤真先生はイタズラが成功して喜んでいる子どものように楽しそうに笑いながら化学の資料集を開いた。




断固たる決意


「17族は、F(ふ)っCl(くら)Br(ブラ)ジャーI(い)らん。って覚えんだよ。」

「・・・・ふっくらブラジャー要らん?」

「胸が小さくても阿呆みたいにパッド入れてデカく見せんなっていう。ちなみに俺は小さくても平気。まぁ大きけりゃ良いに越した事無いけど。」

「・・・・・・。」

「なんだよ、その変なものを見る目は。あれだろ、お前『リカちゃん焦ってゲロ吐いた』を覚えなかったクチだろ。」

「なんですかそれ!」

「中坊が理科で覚える石の種類の覚え方。」



****
一緒に化学の勉強したい←

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -