「俺優しいからさ。最後に1つだけ聞いてあげる。何か言い残しておきたい事は?」
「・・・・っ許してください・・!」
「え、無理。」
何言ってんの?という宗ちゃんの笑顔は眩しかった。
宗ちゃんは両腕を組んで立ちながら魔王の如く笑み、私はその前で直に床に正座。
今どうしてこんな恐ろしい状況に陥ってるのかと言えば理由は1つ。私が何の連絡もせずに先に家に帰ってしまったから。
だってしょうがないじゃん。今まで頑張って録画してきた刑事ドラマの最終話の予約し忘れちゃったんだもん。コンプリート目指してたから最終話を逃すわけにはいかなかった。
携帯使ってお母さんに頼もうにもその日に限って携帯を家に忘れちゃったもんだから、もうダッシュで帰るしかなかったんですよ。
「なまえの頭の中には公衆電話、もしくは俺や友達から携帯を借りて親に連絡するっていう手段が頭にインプットされてないわけ?そうか、そうなんだ、ごめんね。なまえには難しすぎるか。」
「ご、ごめ・・・!」
「許さない。」
笑顔で一刀両断される私。
これほど泣きたくなるシーンは人生にあるんだろうか。そして私に明日という名の未来はあるのだろうか。
最悪なぱらーんしか回らない脳をどうにかコントロールして両手をぎゅっと握り、恐る恐る宗ちゃんへ視線を戻した。
「わた、私がいけないってことはわかって・・ます、」
「本当?よかったちょっと安心したよ。」
「え、じゃあ・・・!」
「許さないに変わりはないけどね。」
頭を思いっきり金槌で殴られたうえに埋められた感覚が走った。
もう家に帰れる自信がない。明日を拝める自信すらない。
「俺を置いて帰ったことは一万歩譲って許してあげる。けど、」
宗ちゃんはしゃがみこんで、正座している私の視線に自分の視線を合わせた。
「連絡もなしに先に帰るのはやめて。危ないから。」
ドクン、と強く胸がなった。
ドキドキドキドキ止まらなくてこのまま死んじゃうんじゃないかってくらい。
「ごめん、なさい。」
「許さない。」
「・・・・・。」
今のは流れ的に許してほしかった、と心の中で大泣きした。
そりゃあね、何度も言ってる様に私がいけないのはわかってる。宗ちゃんは私を心配してくれたんだってことも凄くわかってるつもり。
でも本当に本当に笑顔で怒る宗ちゃんほど怖いものは無いんだよ。
「俺はいつになったらドラマの再放送に勝てるのかな?」
「か、勝ってるよ!ドラマの再放送になんか比べ物にならないくらい!」
「へーえ。」
「・・・・どうしたら許してくれますか。」
そうは聞きつつも、目の前にある宗ちゃんの視線に耐え切れなくて顔を逸らしてしまう。
でも宗ちゃんはそれがお気に召さなかったのか片手で私の両頬を掴んで引き戻した。
「許すと思う?」
「(聞かれた・・!)う、ん。」
「許してほしい?」
「うん!」
ふーん、そう。と宗ちゃんは何かを考えるように自分の口元に手をやって何かを考え始めた。
考える人の像にそっくりなポーズ・・・・あ、あれは手は口元じゃなくて頭だっけ?
・・・どっちでもいいや。
「うーんと……じゃあキス10回分で」
「・・・・・は?!」
いきなり現実に引き戻されたと思ったらとんでもない事を言われてしまった。
キス?・・・・え?
「誰が、誰に、何回?」
「なまえが俺に10回。」
にっこり楽しそうに宗ちゃんは言った。
「ちょ、やだよ!恥ずかしい!」
「じゃあ俺にもっと怒られたいの?キス10回で許してあげるって言ってるのに。」
「・・・・。」
「俺はいいんだよ、別に怒ったって。なまえがそんなに怒ってほしければいくらでも怒ってあげるよ。ノブの分までなまえに怒ってあげる。」
どうする?なんて私の顔を覗き込みながら宗ちゃんは問いかける。
お、怒られたくないし、でもキス10回とか、は、恥ずかしくて死にそうだし。
けど、ノブ君の分まで上乗せ説教は死しか見えないし、何より私がいけなかった。宗ちゃんを心配させたんだから。
だからごめんなさいの意味を込めて宗ちゃんの両の頬に手を添えて、触れる程度のキスをした。
最上の謝罪を
(っー!やっぱり恥ずかしいよー!) (ほら、あと9回ね。)
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