私立校の特権、というものなのだろうか。

春休みでも夏休みでも冬休みでも、その他の長期休暇でもない学校に通うべき平日に男子バスケ部は3泊4日の合宿に行っていた。

まぁその後に補習を軽く受けなきゃいけないようだけど、普通は無いはず。

やっぱり強豪なだけあって合宿中の練習量もハンパないらしい。前に宗ちゃんに聞いたことがある。

だから私は合宿前に宗ちゃんと会った後からメールも電話もしなかった。

疲れている宗ちゃんの邪魔はしちゃいけない。そう自分に言い聞かせながら。



「でも今日帰ってくるんでしょう?」

「うん、まぁ。」

「じゃあいいじゃない。」



久々に会った親友の彩子はアイスティーのストローをくわえながら言った。

彩子とは高校は違うけど中学が一緒だった。まぁ湘北のバスケ部マネをしている彩子は忙しいからなかなか会えないけれど、時間があえばこういう風に会ってお茶をする仲だ。



「元気出しなさいよ。たった3泊4日でしょ?しかも今日帰ってくるんだから。」

「前の合宿は我慢できなくて電話しちゃったけど、今回は我慢してるの。だから4日も声聞かないの初めてで・・・・。」

「はあああ?どんだけ依存してるのよ。」

「・・やっぱり依存してるのかな。」

「それ以外ないでしょ。」



呆れたように彩子はため息をついた。

しょーがないじゃん。寂しいもんは寂しいもん。

テーブルに突っ伏してうめいた。



「宗ちゃんとメールしたい、機械を通してでも良いから声聞きたい、会いたい、触れたい、頭撫でてほしい。」


確実に彩子にひかれるだろうと思いつつも思ったことは言わずにはいられない。

大丈夫、彩子は親友だもん。きっと引かないよ。って思っていたけどなかなか返事が来ない。うそやばい引かれた?なんて不安に陥って顔を上げようとしたらようやく彩子が口を開いてくれた。



「そうなんだ。」

「うん。」

「・・・・だってさ、神君。」

「・・・・は?」



彩子の困ったような、おかしそうな声を聞いて思わず思いっきり顔を上げた。

彩子を見れば私の後ろに視線を送っている。

振り返ればそこには、



「宗、ちゃん。」


カバンを肩に掛けてニコニコと上機嫌で笑いながら立っている愛しい人が居た。

え、てかもしや、今の聞かれて・・・・?



「いやー、俺愛されてるね。」



聞かれてた・・・・・!



「じゃ、私帰るから。」

「ちょ、彩子?待って!帰らないで!」

「何言ってんのよ、私明日朝早いのよ。それに邪魔者は退散した方が良いでしょ。」


バイバーイ、と笑顔で手を振りながら彩子は店を出ていく。

勘弁してくれ、今の宗ちゃんと私が2人でいたら何をされるかわかったもんじゃない。本能が逃げろと言っているけど逃げられない。



「どうしたの、なまえ?」

「え、あ、いや、なんでもない・・・。・・・早かったね?」

「うん。まぁ合宿なんてどこの学校も最終日は早く練習終えて帰るもんでしょ?」

「私合宿とかしたことないから・・・。」

「帰宅部だもんね。」



宗ちゃんは彩子が座っていた向かいの席に座って近くに居たウェイトレスさんにアイスコーヒーを頼む。

あぁ、ここ居座る気満々ですね。



「で?」

「・・・・何、で?って。」

「何で携帯出なかったの?」

「・・・・・ん?」



俺実はここに来るまでなまえをどうしてやろうかずっと考えてたんだよね、と頬杖を付いた。

ていうか、え、電話?



「・・・電話?」

「だからなんで電話出なかったの、って聞いてるじゃん。とうとう電話の使い方もわからなくなった?」


このマークが通話ボタンだよ、知ってる?と宗ちゃんは自分の携帯を取り出した。

なんか久しぶりに会ったせいかS加減が増してる気がするんですけど気のせいですか。



「し、知ってるよ。というか・・・で、電話したんですか?」

「したよ。したから聞いてるんじゃん。毎日電話したのに出ないんだもんね。もう1回言うけど、帰ったらなまえのことどうしてやろうかと思ったよ、本当。」



頼んだアイスコーヒーが来て宗ちゃんはそれを飲みながら笑った。

お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください。あ、でも・・・



「過去形?」

「うん、過去形。」


喉が渇いていたのか宗ちゃんはアイスコーヒーを一気に半分くらい飲んでいた。



「最初はなまえの家行って色んなことしてやろうと思ってたんだけど、ここでなまえを見つけて。それで近づいたらめちゃくちゃ可愛いこと言ってくれてるし。あぁなんかもう許してやろうかな、って。」


途中鳥肌が立つくらい怖いこと言われたけど、その後の言葉が凄く恥ずかしくて思わず顔を伏せた。



「携帯、出なかった理由は?」

「・・・・忙しいかな、疲れてるかな、電話したら邪魔かな、って思って。・・携帯封印してた。」

「・・・はぁ。」



思いっきりため息つかれてしまった。椅子の背に体重を掛けて頭を少し掻いている。



「次からオレが合宿中でも電話出てよね。俺だって声聞きたいって思うんだから。」

「っ・・・・、」

「耳真っ赤。照れてる?」

「て、照れる・・・!」



ふと顔を上げて宗ちゃんを見ると腕を組んで優しい目をした宗ちゃんが居た。



「ね、なまえ。」

「・・・ん?」

「オレがいなくて、さみしかった?」

「・・・・うん。」



すごく、と付け加えたら宗ちゃんは満足げに笑った。




「じゃあなまえの家行こう。罰は受けてもらわなきゃね。」

「・・・は?!」

「え、だって電話出てくれなかったし。」

「でもさっき宗ちゃん許すって・・・!」

「気が変わった。いじめてあげる。」



どろどろに優しくして、頭も撫でてあげる。

そう言われた時は消えたくなるほど恥ずかしくなった。



おかえり!

(お、お母さん家にいるから!)
(だから?)
(ご飯作ってもらおうね!)
(流されないよ。)
(う・・・・。)

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