南のことは好きだ。むしろ大好きだ。

一緒にいて心地良いし、口が悪いのがたまに傷だが、ちゃんと優しく接してくれる。


でも、一緒にいられない瞬間があった。それは練習試合や大会でプレーをしているときの南だ。



学校の体育のバスケの時とか、ただの部活のときは良い。楽しそうに真剣にやってる南が見られるから。

けど練習試合や大会の南たちはダメだった。まるで性格が変わってしまう気がした。元々悪かった口が更に悪くなり、いつも以上に攻撃的になる。


その理由はちゃんとわかっている。恩師である北野さんのことは南から聞いていた。

彼はラン&ガンを主流にしたプレーを大切にしていたということも。その北野さんが豊玉を去ったとき、南たちが北野さんが正しかったと証明するために今の監督がなんと言おうとラン&ガンの姿勢を崩さなかったのも。

そして、南が『エースキラー』と呼ばれているのも。

エースキラーの名前はともかく、そんな色々な理由があったから、余計にそのラン&ガンでほかの学校に負けるわけにはいかないことはわかっていた。



でも、豊玉は、湘北に負けた。

初めて南たちの練習試合を見に行って以来、私は南たちの試合を見に行った。全国での彼らも、やっぱり最初に見たときと変わらなかった。しかも相手の学校のせいかより強暴だった。

それに加えて南が怪我した。一瞬頭が真っ白になって客席を立ち上がって階段駆け下りて、その時北野さんにも会った。

南は北野さんを見ると凄い驚いた顔をして・・ラン&ガンを今も続けているかと真っ先に問うた。そして、北野さんは笑って肯定した。

そのあと南は試合に戻った。一生懸命プレーしていたのを見て私は泣いてしまった。

湘北に負けた後、南たちも泣いていた。



・・・・試合をする南たちが怖かったのは確かだ。でもそれは南たちの北野さんとバスケットに対する思いが強すぎたから。

大好きなバスケをしている南を見なかったことに後悔したのを‥負けてしまった後に気づいた私は、バカだ。







「バレー部が他校呼んで練習試合だからお前ら外で走ってろってどういうことじゃボケええええ!」


一応全国出たんやからビップ待遇せぇやあああ!と実理ちゃんはグラウンドを怒りに任せてダッシュしながら叫んだ。

実理ちゃんたちは一応引退という形を取っていたけれど、そのまま受験勉強一直線なんてことが出来るはずなくて。夏休みも続けて部活に参加していた。今日は私も部活見学に来ている。グラウンドに下りるための階段の中腹から南たちを見ていた。


実理ちゃんが怒り狂って叫んだように、今日はバレー部が体育館を占領する日らしく、グラウンドでの筋トレをするように先生に言われたらしい。この炎天下の中での筋トレは死ねるんじゃないだろうか。



「それにしてもなまえさんが来るなんて珍しいですやん。」

「あ、いっちゃーん。」


走りつかれたのかタオルで汗を拭いながら、いっちゃんがこっちへ近づいてくる。


「確かに試合には行かなかったけど、練習には顔出す事あったやん。」

「まぁそうですけど。」


いっちゃんはこの前の全国大会に私が行った事を気にしているんだろうか。でかい図体してる割にこの子はいろんな事に気づけてると思う。

かなわんなぁ、って笑ってるといっちゃんの後ろから岸本が来た。



「暇やったんやろ。」

「実理ちゃんはそういうの無いなぁ。」

「は?」

「こっちの話。」


プカリをごくごく飲む実理ちゃん。南も丁度走り終わったようでタオルで汗を拭きながらこっちへやってきた。

普段の南もかっこよくて好きだけど、やっぱり好きなことをやってる時の南はもっとカッコいいと思う。南に見惚れてたら容赦なく実理ちゃんにデコピンされた。



「痛いねん!」

「南にお熱な視線送ってるからやろ!天誅や!」


暑いのに熱い2人は見てられません!と実理ちゃんは暴れた。とうとう熱さに実理ちゃんの脳内は腐ってきたようだ。

私も実理ちゃんみたいにならないように直射日光を回避するため頭にタオルを乗っけた。



「で、なまえ。お前本当になんで今日来たん?」


暑いやろ?と南は自分のプカリを私に手渡してくれた。こういうさりげない優しさが好き。普段が不器用だから余計に好き、って感じる。


「んー。なんか今まで勿体無い事してたなぁって。」


プカリを一口、口に含んで飲み込んだ。



「南とか、実理ちゃんとか、いっちゃんとか、もちろん他のみんなと仲良しなのに練習試合見に行かなかったの、今になって後悔してんねん。」


そう言うと南たちは互いに顔を合わせた。私がこんな事を言い出すとは微塵も思っていなかったんだろう。

私だってつい最近まではこんな事思わなかった。

でも負けてから、終わってから気づく事だってよくあることだ。後からああだこうだ言いたくないけど、私は自分の今までの行動を本当に後悔していた。

今からでも、遅くないんじゃないかって思ってしまって今日は足を運んだのだ。


そんないつもらしくない私を見て実理ちゃんがタオルで私の頭を叩いた。



「ほんまやで。お前がな、試合見に来ないこと南は気にしてたんや!」

「ばっ・・!」

「もう部活引退したんやし、ハッキリ言っとけや!」


珍しく慌てたような表情を見せた南に実理ちゃんが珍しく押した。こんな良いタイミング逃したら一生言えんぞ!と実理ちゃんが南を脅す。

いっちゃんも「そうですよ!」と実理ちゃんに賛同して南に迫る。そんな2人の気迫に観念したのか南は頭をかいて私の方を見た。



「最初な、試合をしてるときの俺を見られないことに、安心した事があったんや。」


首にかけていたタオルを取りながら私を見る。そして南はそのまま続けた。


「でもな、色んな学校行って試合をしていくことを重ねてたら少しだけ、寂しくも感じるようになった。」


毎回来てほしいわけじゃない。近場の学校への練習試合のときに自分の試合をしている姿を見てほしかった。でも試合を見に来なくなった原因は自分にあることはわかっていたし、それ以上自分から言える立場じゃない事もわかっていた、と南は言いづらそうに下を見た。


「自分の彼氏が、エースキラーなんて異名持ってるなんて・・嫌、やろ?」


南らしくない、自信の無い凄く小さな声で私に問う。

私はバカだけど、バカでも気づけた。私と南はお互いに一歩踏み出す勇気を持てなかっただけなんだって。



「南はうちの悪い所を注意しても、うち自身を嫌うことはなかった。ずっと、変わらず優しくしてくれた。それなのに、うちが南をそんな異名だけで嫌うと思う?」


気にしすぎや、と笑えば南は泣きそうな表情をした。そんな顔を今まで一度も見たことはなくて、それだけ自分の中で不安でしょうがなかった証拠だった。



「見に行かなくてごめんな、南。」


大っ好きや!と不安も吹き飛ぶくらい叫んで汗だらけの南に飛びつけば、南は嬉しそうに笑ってそのまま私の体重と共に後ろへ倒れこんだ。



ヴォイス
君の声で、言葉で、いくらでも元気になれる

(ぎゃあああ南さんがあああ!)
(阿呆なまえ!自分の体重考えや今凄い音したわ!南大丈夫か!?)
(ぎゃあああああごめん南いいい!)


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