なまえがこの翔陽に入学した事は知っていた。入学式で見かけたのだ。

確かにあの幼稚園だか小学校低学年だかの頃とは顔つきも身長も全然違っていたが、たまに地元で見かけていたからわかったし、何より自分の記憶から彼女が離れる事は無かった。

だって、あの時の俺をここへ導いてくれたのは、彼女なのだから。









「みょうじの補習?」

「そうなんだよ、お前が教師になることを決めたきっかけになったみょうじ。」



高野と花形は俺が教師になろうと決めた理由を知っている。大学がみんな違っても、最終的にはこの翔陽に呼び戻されてまた一緒の日々を過ごすことになったし、この学校で再会してからなんでお前が教師なんだよ!と失礼気周り無いことを言われたので、ぶん殴りながら理由を言ったのだ。


あいつ壊滅的に化学出来ないんだよ、と高野はみょうじの成績表を見た。それを横から奪い取って目を通すとすぐに成績表を閉じる。

凄まじく酷い化学の小テストの点数があった。一瞬0が見えたのは俺の見間違いか。0が1つならいい。それが何個もあったのは気のせいだと信じたい。

なんだよ、ありえんのかよこんな結果。



「なに、こいつ勉強できないの?」



思わず絶望的な声で高野に問いかける。



「いや、それが他の先生に聞いたら他の教科は並かそれ以上出来るみたいなんだよ。」



花形に聞いたら数学も普通に出来てるらしいぜ、と高野が頭を掻く。

そうか、化学だけか。よりによってこいつはどうして俺が担当の化学が出来ないんだ。まぁ化学が出来ないのは俺のせいじゃないけどな。担当教師じゃないし。

そんなことを思った結果、思わず「ふぅ、」と一つ大きなため息を漏らしてしまった。

いやだめだ、俺がそんなことじゃ。俺はこの子に助けられたんだから。



「・・俺がやる。」

「は?」



俺の発言に、高野があほみたいな声を出した。



「は?じゃねぇよ。みょうじの補習、俺がやる。」

「何言ってんだお前、さすがにそれは無理だろ。だってお前みょうじのクラスの化学担当じゃね・・、」

「俺がやるっつってんだろ、壊れてんのかお前の耳は。」



あぁん?と、教師になってからは絶対に誰にも見せたことない表情で高野を睨むと「わかったよ!落ち着けよ!」と慌てて俺を抑えた。

本当に我が儘なんだから!と高野は女子みたいにもう!という。


そんなキモさはもうどうでもよかった。

なまえの力になりたい。ただそれだけ。

最初は好きなんて気持ちは無かった。ただあの時の恩返しをしたかった。ただ、ただ、それだけだった。

本人から補習を断られかけたときは全力で止めにかかった。もう反論できないように強制的に17族を言わせ続けた。どうしても俺が勉強を見たかったから。

けどなまえの面倒を見るにつれて違う気持ちが生まれてしまった。

好きだと。

いや違う。超ロリコン発言だが、俺は昔から、なまえの笑顔を見るのが好きだった。


彼女のことが、恋愛感情をもって、好きだったのだ。








「・・・先生、藤真先生!」

「・・・・やべぇ一瞬寝てた。」



心地いいなまえの声で目が覚めた。どうやらポカポカ陽気のせいで寝てしまっていたらしい。

よだれ出てる、と思わず白衣で拭った。

今日は翔陽高校の卒業式。俺は別に担任を持ってるわけじゃないから、理科室で時間をつぶそうと思ったら、思わず寝てしまったのだ。



「卒業式終わったら理科室来いよって言ったの、先生のくせに。」



全力で寝てるってどういうことなんですか、となまえは困ったように笑った。

そう、俺はその笑顔が、大好きなのだ。



思わずなまえの頬に手を当てる。



「ちょ、学校・・!」

「大丈夫。」



寝ぼけてるの・・?!となまえはあわてる。

いいのいいの、とそんななまえをたしなめた。

なんたって、お前は今日で最後の俺の生徒で、校門をくぐったら、生徒じゃなくなるんだから、と思わず目を細めてしまう。

なまえは俺のこの発言に照れて口をパクパクさせている。



「ずっと、ずっと待ってた。」

「先生・・・。」

「俺の理性最強。よく耐えた半年。」

「・・・・。」



また俺の発言に固まったなまえの鼻を掴む。

百面相、というとうるさい!と暴れるなまえ。そんななまえが愛おしい。

ずっと待ってた、この日が来るのを。



「卒業おめでとう。なまえ。」

「ありがとう、ございます。」

「どうしたんだよ、どもって。」

「いや、なんか早かったなぁって思って。」



何かしみじみしちゃいました、となまえは笑う。

たしかにな、と俺も賛同した。



「2週間後から1人暮らしも始まるし。」

「・・・は?」

「・・・え?」



なまえの発言に、二人で間抜けな声を出した。

え、なに、1人暮らし?おめぇ1時間くらいで通えんじゃねぇかよ都内、とツッコむと、なまえはそうなんですけど〜、と頬をかく。



「やっぱり親元離れて4年間過ごしてみようかと思って。」

「どこ行くんだよ。」

「横浜。」

「近くね?」

「いつでも帰ってこれるように・・。」


いやでも家賃はちゃんと自分で払いますよ!奨学金とか申請するし!と、なまえはあわてる。

いや別に金銭問題のことは俺はどうでもいいけども。



「・・・家決まってんのかよ。」

「即日入居できるところを探してるところです。別に実家からも通えるから急いでないし。」

「2DK家賃8万以内を探せ。条件により、多少の前後も可。駐車場がついてるか、近場にあるかも探せ。」

「・・・え?」

「俺が家賃は払う。光熱費も俺が払う。食費も払ってもいいけどそれだとおまえが嫌がるだろうからそこは折半にしよう。」

「いやいやいやいや!」

「なんだよ文句あんのかよ。」


あぁん?と睨めば、なまえはいや、そうじゃなくて!と叫んだ。




「そ、れって、ど、同棲ってやつ・・・!」

「おう。今日の帰りにでもお前んちに行って挨拶してやるよ。」

「いや!そんないきなり来たらお父さんとお母さんが卒倒しちゃう・・・!」

「平気だよ。どこの馬の骨じゃねぇんだぜ?」



俺だぜ?許可しか出ねぇよ、と言えばもうなまえは何も言わなかった。

そうですね、としか言わない。



「飲み会は事前申請で。大学なんて付き物だからな。許可はしてやる。」

「は、ぁ・・・。」

「飯はできるだけ作ってくれ。花嫁修業だと思って。」

「は・・・!」

「大丈夫だよ、もらってやるから。グラタン作れる系女子になってくれ。」


期待している!と肩をぽん!とたたけば、もうなまえはそれ以上何も言わなかった。




ずっと、ずっと待ってた


(生徒と、教師じゃなくなることを)


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やっとかけた!
翔陽高校はモデル上だと横浜駅から20分くらいだから全然藤真先生通えちゃうんだぜ!←


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