「・・・あった・・・・・。」


あっ、た・・。とパソコンの前でポツリ、とまた零した。



藤真先生と合格祈願に行った後、私たち高校3年生は受験のために学校に行くことがなくなった。家で、塾で、人によって勉強の仕方はさまざまだけれど、とりあえず学校には行かない。

藤真先生とも土曜日に会うことはやめた。これは藤真先生に言われたからじゃない。私が会わないと決めたのだ。

会いたいか会いたくないかと言えば会いたい。とっても会いたい。会って藤真先生のあったかい安心感に浸りたい。

けれど、私は勉強に集中して第1志望に合格したかった。自分のために、そして今まで付き合ってくれた藤真先生のために(あ、高野先生も)

あの初詣の帰り、次に会うときは私が合格して進路決定した時ですね、と別れ際に言えば、藤真先生はニヤリと笑って「ちげぇよ、自己採点俺がしてやる日だよバーカ」と最後までおちゃらけながら笑って去って行った。



そして今日、第1志望校に、受かったのだ。



確かに一般試験後、藤真先生に私のテストの答え合わせをしてもらった時、化学がとっても良いと喜んでくれたのを覚えている。

しかも化学がもしかしたらこの受験の要かもしれないとも言ってくれた。生物と化学の選択ができた私の第1志望の一般入試。いつもは比較的簡単な生物が例年よりも難しい問題で、化学が比較的例年より簡単だったのだ。

そしてラッキーなことに今年は7割の人が生物を選択受験していたらしい。


受験を終えて、ドキドキとしながらただぼーっと過ごす日々が昨日まで。

今日、さっき、数分前に私の戦いは終了した。受かったのだ。嬉しくて、なんて表現したらいいかわからない。パソコンに自分の受験番号と生年月日を入れたら「おめでとうございます、入学資料を郵送させていただきます」と表示されたのだから。

はやく、はやく、と焦る気持ちを抑制して、震える指を一生懸命動かして携帯をいじる。そして発信ボタンを押して耳に電話を持っていく。

プルルルル、プルルルル、とコールが何回かして、電話の相手が出てくれた。



「もしもし?」

「ふ、藤真先生・・!」

「・・・・どうした。」


俺今学校だ、悪いな、と私の名前を出さずに今の状況を教えてくれる。

本当なら私の名前を呼んで「どうだった?受かったか?」って聞いてほしかったけれど、そんなわがまま言ってられない。

言いたい。でも言葉が詰まる。上手く息ができない。

そんな私を心配したのか、電話越しの藤真先生が「どうした、大丈夫か?」と声をかけてくれる。


大丈夫、大丈夫だよ、藤真先生。



「受かった・・・。」


受かったよ、と泣きそうな声を必死に振り絞って電話の向こうにいる藤真先生に伝えれば、藤真先生は何も言わない。

受かったんだよ、先生。もう1度そう言いたいけど、声が出ない。思ったことを言葉にできなくて、1人勝手に葛藤していたら、ようやく、電話の向こうにいる藤真先生が口を開いてくれた。



「今日はどうにか高野に部活任せて帰る。授業が終わったらすぐ帰る。」


じゃあな、と切られてしまった。


どうしよう、藤真先生声低かった、と思ったけれど、1分後に携帯が震えた。1通のメールを受信したのだ。

受信ボックスを開けばそこには藤真先生からもメールが1通。藤真先生ってこんなにメール打つの早かったっけ?と思いながら開けば、思わず口元が緩んでしまう。



高野に押し付けた、マジですぐ帰る。いつもの公園5時。それまでまってろ。


その文面を見てクスリと笑ってしまった。また高野先生に押し付けたんだ、と思うと面白くて、それと同時に少し申し訳なく思う。けれど、それよりも藤真先生に会いたいと思う気持ちの方が何倍も上回っていたから。

携帯を投げて外に出られる格好をした。もう今の時点で3時過ぎてるし、5時なんてすぐだから、そう思って家で約束の時間まで待っていられなくて、公園に足を向けた。


普段と変わりない道なのに、すごく新鮮でなぜか楽しい気持ちが溢れ出る。

公園についたらベンチに座って待ってます、と歩きながら先生にメールを入れておく。送信ボタンを押すころにはもう公園に着いていて、ぼーっとベンチの上で時間が流れていくのをただ感じて藤真先生を待つ。全然苦じゃない。空を仰いでいれば、雲の流れが速い。ビックリするくらい早く時間が流れて行く。

先生に会ったら、最初なんて言おう。

褒めてくれるかな?電話の時は、学校だったから声が低かったけれど、喜んでくれるかな。

いろんな想像を、良いことを考えると自然とほおが緩む。

すると、たたた、と誰かが駆けてくる音がした。

顔を上げれば、そこには愛しくて、誰よりも会いたかった藤真先生がいて。



「なまえ!」

「・・・ふじ、」


藤真先生、と立ち上がって顔をほころばせて結果報告をしようとした瞬間、目の前が真っ暗になった。

体中が暖かい温度に包まれて、大好きな匂いが私を包む。



「なまえ、偉い!本当よく頑張った!」


俺はうれしい!と私の肩を掴んで一瞬引き離して私の目を見て本当にうれしそうに笑顔を向けてくれる。そしてすぐにまた引き寄せられて抱きしめられた。



Congratulations!

(おめでとう!よくやった!)

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