*響かない救難信号

*四肢切断的な表現有。



吊り下げられた足に唇を落とす。紐で括られたそれはぴくりと反応を返した。宙吊りの足がぶらぶら揺れる。はぁと息が漏れる唇に指を添えると目を塞いでくれと叫ばれた。開けてしまいそうで怖いらしい。
太腿から膝裏にかけてゆっくり撫で回していると足元で胴体が身震いしていた。球体間接が抜けた肩と股関節のその仄暗い穴には、底無しの虚無が広がっているみたいだ。そっと足の付け根、人体にくっついてたなら決して触ることのなかったその部分に触れた。空洞の中に指を数本入れる。絶叫しながらもどうやらこの行為は快楽の一環らしく、膝に乗せていた頭ががちがちと歯を鳴らしている。

「そんなに涎を垂らして…君ははしたない子だね」

タオルで口元を拭いてやると盛大に呻いた。せっかく拭いてやった唾液も次から次へ垂れ流し、クジャは意味のない行動にうんざりしてジタンの口にタオルを詰める。
嗚咽を交えまた涙で泣きはらした頬に、既にできていた涙の後をそれが再び伝う。口の動きでごめんなさいと何度も謝罪の言葉を述べるそれの頭を撫で髪を梳いてやる。

「何を謝る必要があるんだい?悪いことでもしたのかい?」

わざとらしく聞いてやる。すると膝の上から転げ落ちそうになったものだから、髪を掴んで止めた。歯を食いしばり、痛みに耐えるジタンの顔が自分の加虐心を煽る。今度は眼球でもほじくろうかとジタンの目元に手を添えると、意図することがわかったのか頭は暴れ出して落ちてしまう。
床を転がるそれは腕の球体間接に当たり止まる。先程から床を這い回っている腕は片方だけで頭を抱きしめた。しかしあっけなくクジャに頭を持ち上げられてまた腕は寂しそうに部屋の中を這う。

「ジタン、君の体は全部僕のものだろう?」

頭を抱きしめたクジャが言う。
腕も足も胴体も首も眼球も、みんなみんな自分の物だった。大事に大事にしておきたいからこそ、わざわざ関節を外して体をパーツ毎に一つ一つ綺麗に天井から吊して飾ってやっている。けれどそれも、あまりに暴れ回ったあげく、吊ってあるだけのジタンの腕や足はいつの間にか床に落ちてきていたり這い回ったりした。
見つめ合っていたジタンの目は嫌々を繰り返す。そっと唇にキスをするも唾を吐きかけられそうな形相だった。しかし、実際に唾を吐きかけられることはない。そんなことがあろうものなら、今晩から屋敷の一室の薄暗い拷問部屋がジタンの寝室になるだろう。あの部屋をいたくジタンに毛嫌いされている。

「どうしてそんな顔をするんだい?台無しじゃないか」

笑う。そして顎から頬にかけて顔の左側をクジャが舐めた。まだ幼い少年が首から下の全てを失いながらも官能的な声をあげる。声がどこから出てるのか気になって、どのような仕組みなのか下から覗いても良かったが彼が恥ずかしがるのでやめた。もうやめてくれと何度も懇願される。ジタンの口からかすれた声が漏れる度、くっくと喉につっかえたように笑ってクジャは口元をつり上げた。

「もっとだジタン…もっともっと僕を喜ばせておくれ」

愛しい少年の頭を抱き締める。窒息しそうになったジタンが胸の中で暴れる。
そのままぎゅうぎゅうと鼻と口を胸に押しつけていると何も言わなくなった。クジャはおかしいと思った。何かが今までと違っていた。

腕の中の頭は鳴かなくなった。今まで部屋中を這い回っていた腕や足も、糸が切れたマリオネットの残骸だ。急の事態についていけなかったクジャは、息をしなくなった頭を撫でながら微笑み、優しい御伽噺を語り出した。



「…という夢を見たんだ」

「悪趣味極まりないな、その夢」

だるそうなジタンの声。時刻はまだ明け方で、クジャに起こされた彼は随分と不機嫌な様子だった。ベッドのサイズは二人が大の字に寝ても有り余る程なのに彼らは寄り添って眠っている。

「途中までは素敵だったよ、君のもがく姿も格別でね…」

「ああもうわかったって、俺眠いんだよ…」

「話は最後まで聞くべきだよジタン」

悪夢は誰かに聞いて貰わないと正夢になってしまうんだ、とジタンの耳元でクジャがそっと囁く。ジタンはため息をついて仕方なくクジャの話に耳を傾けることにした。


End...


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