ストーカー

※CP無、現パロ


雨が降る前はそんなに寂しくはなかった。放課後に何気なく友人と出掛けるゲームセンターで財布の中身をすっきりさせた後、ふらっと本屋に立ち寄る。普段よく足を運ぶ店だ。目に留まった雑誌などを読み耽っていると、突然目の前の硝子は濡れた。

「うわ〜まじかよ」

ぱたっと閉じたそれに歪な折り目がついたことなど、ジタンは知る由もないだろう。適当な棚に本を戻すと、少年は空から降ってくる水滴に視線を奪われた。雨に色をつけるなら、自分の瞳と似た色になることを知っていた。硝子にへばりつくそれをじっと見ているとぴかっと目の前が光る。はっとなってジタンは外から目を逸らした。

見てる。ずっと見てる。こっちを。

それは何度となく目を合わせている顔だった。正確に言えば毎日。見る度にその存在感は自分の中で強固なものになっていくのがつい最近判明した。同時に自分を見つめる瞳の奥の野心までも透けているような気さえする。
とにかく執拗なのだ。彼は四六時中、自分を監視してるようだった。こういうものはきっと相手にバレないように遂行するものだとジタンは認識していたが、奴の行動は常軌を逸している。見られたがってるのだと思う。自分の存在を確認させて尚且つ徹底的に相手の脳裏に焼き付けないと気が済まないらしい。奴からの無言電話も頻繁だった。今でこそ着信拒否に設定してあるものの、非通知からの電話が来る度以前聞いた端末の向こうから聞こえてくる息遣いは恐怖以外の何物でもない。そのうち自室のドアを力任せに叩いてくるのではないかと不安だった。
今のところ接近戦になったことがないのが幸いだった。ジタンは年相応の体格でないことに非常にコンプレックスを抱いている。いくら相手が細身だからといって相手は自分より背が高い大人で男だ。力負けするのは見えている。
ここから重要になってくるのは一人で行動しないことだ。誰かと一緒にいることで奴が諦めて振り切れるケースが極めて多い。問題は人員だった。友人の多いジタンのケータイのアドレス帳にはたくさんの人物の名前が載っていた。普段ならそこからわりかし仲のいい幼なじみなどを呼んだりするのだが、残念なことに今はバイトやら用事やらで頼れそうな友人は出払っている。その他の連中にも先程から連絡を回してるが色好い返事は貰えない。
今までにこんな最悪なケースはなかった。連絡がとれるといえば女友達と妹のミコトだけだ。しかしこんな危険な場にわざわざ女の子を呼ぶなんて真似はしたくなかった。でもよく考えた後、それもありかもしれないと頭の中で組み立てる。もし自分の隣にいる見知らぬ女性を彼女だと勘違いすれば、さっさと家の方へ帰ってくれるかもしれないと踏んだ。
ジタンは急いで女友達に連絡しようとしたその時、後ろから肩を叩かれた。窓の外を見るといたはずのそれは消えている。脂汗がジタンの耳の裏側から首筋を伝い、後ろを振り向くのを拒んだ。後ろで何か言ってるのも慌てすぎてジタンの耳には入っていない。ケータイを握る手に文字を打とうとする気力はなかった。

「………」

息を飲んで振り返る。こうなったら何が何でも抵抗するしかないと覚悟を決めた矢先。振り返った先にいた人物に拍子抜けした。

「…クジャ」

どうしてそんなに驚く必要がと眉をひそめてこっちを見ていた。見慣れたその姿形に内心ほっとして緊張を解いたジタンはクジャに寄りかかる。不思議そうな顔をしながら指でジタンの髪を梳いた。外にいるのに随分と大胆だねと嘲笑まじりにクジャは言う。

「そういや何でお前、ここに?」

「たまたま雨宿りしてる君を見つけてね」

そういう彼の片手にはビニール傘が一本。本屋を出るなりそれを広げるが、二人で入るには余りに小さかった。とんとんと肩がぶつかる中クジャが話題を切り出してくる。

「そういえば、しきりに外を気にしてたようだけど何を見てたんだい?」

その問いにジタンは全く違う理由を取り繕い、特に意味はないことを告げる。上手くいったようでクジャは特に詮索してくる様子はなかった。あまり自分以外の人間を巻き込みたくない一心でジタンはそう遠くない忍び寄る危険性に自ら蓋をした。



End...




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