*ごちそうさまはいらない。

*クジャジタでカニバリズム?




まずは足の爪。少し伸びてしまっているそれを噛み切る。よく噛むとじきふやけた。腹は膨らまない。まだ食べれる。しかし味はよくわからない。親指中指薬指人差し指小指の順に食べた。小指の爪は他より硬い。

「てのひらが舐めたい」

思って掴んだそれは自分のより幾分小さい手。肉はふくふくしていて柔らかく、てのひらは最後まで置いておくことにした。指先については爪をかじった。吸いたくなったので指ごと吸い込んで舐め上げる。付け根の辺りでがりがりごりごり。少年の手は不完全な状態になった。赤い液体が溢れてきたので舐めたら鉄臭かった。食欲は失せない。吸うと溢れてきたので限界まで口を離せなかった。全部出尽くした時には口周りが真っ赤になったのでそれも舐める。同じことを繰り返し、彼の手はてのひらから先がなくなってしまっていた。両手とも。

「足の指が食べたい」

指に味を占めて足の指をがりがりごりごり。手よりも短いので食べ応えがない。どうしたらいいのだろうと考えて足首から下を食べてしまえばいいことに気がついた。質量的には手と大差ないだろう。思った通りたくさん食べて満足感を得られた、が少々骨っぽい。足首よりちょっと先までいったところ。

「もう食べれない」

自分の胃袋が満たされたことによりモーニングは終了。食材は清潔なシーツを引き直したベッドの上に横たえられた。赤い液体で汚れたシーツは今から洗濯に取りかかる。今日は天気がいいので洗濯物をかわかすにはうってつけだった。

いたって平和な、いつもの昼下がり。洗濯物を乾かして、鉄臭い自分を風呂場で洗濯する。休憩がてら淹れた甘いバニラの香りが鼻先についた頃。本日二度目の空腹感が彼を襲った。理由は簡単。視界の端に少年の体が映ったから。まだそんなに飲んでもいない甘い紅茶には目もくれず、柔くてきめ細かくて紅茶より何倍も甘そうな頬を口に頬張った。あまりの美味しさにいつも貪りたくなるのだが、顔は最後まで残しておくものと心に決めている。

「ジタン」

名前を呼んでも何の反応もない。蝋人形のような無表情。感情というソースの乗らない瞳。舐めるとぶにぶにして何よりもどっちつかずなその色が好きだ。だけど、喉は潰してしまっているからもう声を聞くことはできない。五月蝿いからといって楽しみを減らしてしまったことを少し後悔しているのだ。少年の頬を涙で濡らす。今更後悔したって遅いのに、目からしょっぱい水は溢れてくる。

「もう一度」

もう一度だけでいい。君の声が聞きたい。名前を呼んで欲しい。笑顔が見たい。抱きしめたい。キスがしたい。ここまでしておいて理不尽な要求だと理解してる。戻って来ないのも認識してる。だけどそれに気づいても欲求は変わらなかった。

もう一度生きている君に会いたい。





現実か夢か最早わからないし、どうでも良かった。そこはベッドの中で隣には愛する君がいる。まっさらな状態の。それで、それだけで良かった。手首や足首から先はちゃんとあるし、食いちぎった喉も規則的に動いてる。臍を開いて内臓を取り出したような形跡もどこにもない。思わず隣にいたぬくもりをぎゅっと抱きしめるとぐぇ、と呻かれる。名前を呼んでやると何だよと返事をした。

「まるで夢みたいだよ、またこうして君に会えるなんて」

何だよ寝ぼけてるのかよ、とジタンにとってはその一言で終わりだった。



End...

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