化粧

*現パロ


 昼も夜もわからない場所に連れて来られた。
 ライトアップされた道は深夜だというのに真昼のような輝きを誇る。
 その景色を見つめる瞳に走馬灯のように次々に街並みが映り込んで目の中に凹凸を作りながら新しいものから古いものに移行していく。
 少年の目はスクリーンの代わりになっていた。
 ガチャガチャという効果音がお似合いだと思う夜の街で、ジタンは車輪の4つついた箱の中に押し込まれてしまった。
「なあ、俺明日学校があるんだけど」
 助手席に座らされたジタンは酷く疲れて眠くなっていた。
 夜も遅く帰ると流石の兄も起きてないだろうとたかをくくっていたが予想はおおはずれ。
 ドアの前で仁王立ちなんて性格ではないが、リビングのソファにもたれかかり液晶テレビの砂嵐を眺めるクジャに遭遇したということだ。
 おそるおそる一歩部屋へ入るときたまえと背中から無言の圧力を感じる。
 何処に行っていた何をしていた今は何時だと思っている、長い詮索と説教の後、今に至る。
 何故こんな時間に外に連れ出されているのか理由はもう覚えていない。
 というより知らない。
 半分くらい寝ぼけていたところに長い話を聞かされて、無理矢理車に乗せられてきたので途中で眠ってしまっていたらしい。
 おかげでここがどこだかわからないし、いつ帰れるかもわからない。
 わからないことだらけだったがジタンの意識は朧で一定のリズムで揺れる車体に身を任せていたため、穏やかだった。
 それに時々こういうことがあるので今に始まったことではない分落ち着いていた。
 気性が激しくなったときのクジャは突飛な行動に出るのが常だった。
「なあ、聞いてるんだろ?」
 顔は見ずに尋ねた。
 顔を合わせるとまた怒られてしまいそうだったので。
「僕には関係ない」
「まだ怒ってる?もうしないから帰って寝…」
「この間も同じことを言ったね」
 めんどくさい、と何度思ったかわからない。
 この男は自分が帰ってくるまでは寝ずに待っているのだ。
 クジャと二人で暮らすようになってから、彼が自分に対して重度の過保護だと再認識した。
 昔はそうでもなかったのだが、状況は移り変わりを見せる。
 学校の場所の都合で都会に一人で暮らしていたクジャの家に転がり込んでからというもの、年も少し離れた彼は親代わりというよりは見る人の目には半ばストーキングに近いくらいの監視力を発揮している。
 時々鬱陶しく思う。
「謝ってるだろ、ブランク達とは何年も一緒で友達だってお前も知ってるじゃないか。お前が怖がるような関係じゃ…」
「僕が怖がってるだって?」
「じゃあ何だっていうんだよ。俺だってもう高校生なんだ、夜遊びくらいするさ」
「…」
「クジャ、帰ろう」
「もう少し、あと少しだけでいい」
「…はぁ…わかったよ」
 信号が赤に変わる。
 このままずっと青にならなければクジャは満たされるのだろうか。
 お互いに辛いのだったらやめにしてしまえばいいと何度も思ったし、言った。
 それでもクジャは首を縦には振らなかったし、振って欲しくないと思い続ける自分がいた。
 それでも問題というのは山積みで、いつ露見するかもわからない。
「なぁ…」
「何だい?」
「俺のこと、まだ好き?」
「愛してるよ」
 けれど、どんなに周りの目が恐ろしくとも安心する言葉はここにあった。
 即答するその言葉に偽りはない。
 信じてないのかと憤りを感じる程だ。
「ようやくこっちを向いたね」
 視線は道路から外さないままクジャは言った。

 明け方に帰宅した二人はベッドに突っ伏して眠った。

 

 

End…

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