つくづく変な奴だと思う。ガラルのあらゆるスタジアムに出没し、見ず知らずのトレーナー達にボールを配っているこの人は、一体何が目的なんだろうか。

「チャンピオン!来たボルね!!」
「ひっ!?」

チャンピオンカップに出場依頼がかかり、見つからないように控え室に入ろうとしたのに、そいつは目敏く私を見つけて走って来た。

「もう!チャンピオンったら、声もかけずに行っちゃうなんて水臭いボル!あっ、水といえばルアーボール…」
「あの、もういっぱい持ってるから気持ちだけ頂いておくね。ありがとう。」

他のトレーナーにはケチ臭く一人一個しかボールを渡さないくせに、何故か私は気に入られているらしく会う度にこうやってボールを渡してくる。最初はありがたく頂戴していたものの、気が付くとリュックの中は貰ったボールで溢れ返っていた。

更にどこから情報を仕入れたのか私のアパートの住所と部屋番号まで特定されており、月に一度業者から納品したのかと錯覚する程大量にボールが送られてくる。
荷物に添えられた手紙は私の話題ばかりで、バトルの事や手持ちのポケモンの事、加えて今私が身に付けている服の事等長々と書き連ねられていた。

そして今もなお部屋の隅に積み上げられたダンボールにはおびただしい数のボールが入っていて、このままではボール専門店が開けてしまいそうだ。

そんな訳で今ボールを貰うわけにはいかない。そう思いポケットの中をまさぐるボールガイをやんわりと制止した。

「要らないボルか!?」
「うん…ごめんね。」
「ボクの気持ちを受け取ってくれないボルか…。」
「そ、そういう事じゃないけど。」
「ひどいボルゥゥゥ!!!」

気が付くと私達はギャラリーの注目の的になっていた。ロビーのど真ん中でオーバーに泣き真似をしているボールガイとチャンピオン。傍から見たらチャンピオンがボールガイを虐めているようにしか見えないし、パワハラ現場だと勘違いする人も居るかもしれない。

こうなったら仕方ない。この場を丸く収める為に、私はおもむろにリュックに手を突っ込んだ。

「今日は私からプレゼントね。いつもありがとう。」

リュックから手探りで適当にボールを掴みボールガイへ差し出すと、ボールガイは泣き止めをやめて私の手元を見た。

「本当に…?」
「うん。私の気持ちだから。」

良かった、これで何とかなりそう。ボールガイがしげしげと大切そうにボールを眺めていて私も笑顔になった。優しい世界だ。
そういえばちゃんと見ずに渡したけど何のボールだったんだろう。

ボールガイの手に渡ったボールを見た瞬間顔が引きつった。

「チャンピオンもボクと同じ気持ちだったボルね…。」
「うわ、本当にごめん。ちょっと待って。」

まずい事になった。真っピンクのラブリーなハートが描かれたボール。私の気持ちだとか言いながらラブラブボールを渡してしまっていた。

「チャンピオン!お返しにボク自身をプレゼントするボルゥゥ!」
「ごめん!大丈夫だから、ほんっとうに大丈夫だから!」

全速力で追いかけてくるボールガイを振り切り急いで控え室に入った。恐る恐るドアの磨りガラスを覗くと、向こう側でラブラブボールを片手にいつものダンスを全力で踊っている。

「チャンピオンにラブラブボールで捕まえられちゃったボル〜〜!」
「…ぷっ、本当に変な奴。」

ボールガイはつくづく変な奴だけど、それを満更でもないと思ってる私も十分変だよな。



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