名前先輩がスコアシートと睨めっこを始めて三十分が経とうとしていた。暇潰しに先輩の消しゴムのスリーブを外してでかでかと清田信長って書いてもシャーペンを勝手にバラしても全然気付いてくれなくて、俺が期待する言葉は先輩の口からは出てこなかった。
「せんぱぁい、まだっすか?」
「ちょっと待ってね。色々仕事が溜まってて…。」
「そんなの明日で良いでしょ!俺が許しますから!」
「ふふっ。それがね、そういうわけにもいかないのよ。」
スコアシートにばかり集中して俺の方は一切見てくれないので、代わりに名前先輩の顔をこれでもかと言うほど眺めてみた。いつもの笑顔が一番好きだけど、真剣な面持ちの先輩もほんの少しあどけなさが残っていて好きだ。やっぱり先輩は俺の視線に全く気付いてない様子だけど。
「先輩。」
「はーい。」
「先輩っ。」
「んー?」
「…名前。」
何気なく呼び捨てにしてみたら、きょとんとした表情の名前先輩と目が合った。勢いで言ったものの急に恥ずかしくなってしまい、照れ隠しにわざと大声を出して問い質した。
「先輩は俺とスコアシートどっちが大切なんですか!」
「何言ってるの。ノブに決まってるでしょ?」
破壊力抜群の笑顔を見せられ、俺の胸はいとも簡単に貫かれてしまった。バスケ部の癒し的存在なだけあって、あの牧さんでさえも名前先輩だけには甘いんだよな。まっ、俺が牧さんでもベタベタに甘やかすだろうけどよ。
「名前先輩ー。」
「あとちょっとだから、待ってね。」
「………。」
俺を放置した罰として、先輩には少しばかり反省してもらわねえといけないみたいだな。
勘付かれないようにゆっくりと身を乗り出し、険しい顔をしながらスコアシートを見つめる先輩の顔が一気に近くなった所で、餅みたいに柔らかい頬をぷにっとつまんだ。
「もーらい!」
「ん、っ!?」
先輩の唇に押し付けるようにキスをしてやると、触れ合う所からふわふわとした感触が伝わってきた。女子ってどこもかしこも柔らかいよな。あっいや、名前先輩以外触った事ねえけど!
「先輩、真っ赤ですよ?」
「もう……ばかっ。」
「あー、可愛すぎ。」
顔を真っ赤にして俺を睨みつける先輩の可愛い姿が見れたんで、全部チャラにしときますよ。