それから暫くはまたヤローさんに会えない日々が続いた。ヤローさんはヤローさんでジムチャレンジが忙しく、私はというと入園希望のトレーナーが後を絶たずに毎日クタクタになるまで働いていた。
ヤローさんも園に来る事はなく、休みの日は例のインタビューで話していた"好きな人"と上手くやっているのだと思い込んでいた。

とある休園日、園に居るピィが誕生日を迎えた。部屋の飾りやプレゼント、それにケーキはすでに用意していて、後はお花好きのピィに渡す花束を買いに行くだけだ。

「それじゃあ、お留守番よろしくね。」
「クー。」

割烹着に身を包んだキテルグマを一撫でしてからターフタウンに向けて歩き出した。ターフタウンのお花屋さんへは歩くと三十分ぐらいかかるけど、今日は天気も良く暖かな気候という事もあり苦にはならなかった。


「いらっしゃい!」

お花屋さんに着くと、人の良さそうなおばさんが店先で花材の手入れをしていた。色鮮やかなお花が所狭しと並んでいて、どれも目移りしてしまいそうだ。

「あの、ピンク色のお花でまとめた花束が欲しいのですが…。」
「ありがとう、すぐ作るね。あっ、良かったら待っている間にハーブティーでも飲んでいかない?」
「あ…ありがとうございます、頂きます。」

一つしかないこじんまりとしたテラス席に腰掛けて待っていると、数分後に奥からおばさんが戻ってきた。ソーサーにはカモミールの花が添えられていて思わず頬が緩む。差し出されたカップを口元まで近付けるとハーブが茶葉を邪魔する事なく引き立てていて、今まで飲んだどのハーブティーよりも香り高かった。

「わぁ、おいしい…!」
「それは良かった!」

手際良く花を水揚げしているのをぼうっと眺めていると、おばさんが人懐っこそうな笑顔を浮かべて話し始めた。

「あなた、ヤローさんは知ってるよね?ヤローさんも綺麗な花を育てているんだよ。」
「そ、そうなんですか?」
「実は、そのハーブもヤローさんがお裾分けしてくれたものでね。」
「多才ですね…。」

"ヤローさん"と聞くとすぐ顔に熱が集中する癖をどうにかしたいと思いながらも、淡い恋心を悟られまいと平然を装い返事をする。

「そろそろ頼んでいた肥料を持って来てくれる時間なんだけど…。」
「ええっ!ヤローさん来るんですか!?」
「うん。…あれ、もしかしてあなた、ヤローさんのファンだった?」
「えっ、とあの…ファンというか…えっと…その…!」
「おばさん、遅くなってごめんなぁ。」

振り返って声のする方を見ると、大きな手で小さな紙袋を持つヤローさんが立っていた。

「あっ!なまえさん!ターフタウンへようこそ。」
「や、ヤロー…さん…こんにちは。」
「ヤローさん、こっちこそ忙しい時にごめんね!」

ヤローさんはおばさんににこりと微笑んだ後、私の隣に腰掛けた。暫く会っていなかったからかすごく緊張してしまいヤローさんの顔を見れずにいた。

「なまえさん、久し振りに会えて嬉しいです。」
「わ、私もです。…あっ、ハーブティーすごくおいしいです。」
「ハーブティー…あぁ、ぼくんとこのハーブですもんね。なまえさんの口に合って良かったです!」

落ち着きを取り戻そうとカップを口に運ぶと突然ヤローさんに頭を撫でられ、一気に頬が熱くなった。それと同時に胸がきゅうっと締めつけられる。こんな所をヤローさんの好きな人に見られてはいけない。そう思い、ヤローさんの手をそっと自分の頭から離した。

「ヤローさん、その…誤解されちゃいますよ…。」
「ん、誰に?」
「ヤローさんの好きな…」
「お待たせ。花束できたよ!」
「あ…っ、はい!」

言い切る前におばさんに声を掛けられ、慌てて立ち上がりおばさんの方へ歩み寄った。差し出された淡いピンク色の花束を見て思わず声が漏れる。 何よりもピィの喜ぶ顔を想像すると自然と顔がほころんだ。

「なまえさん、誰かにプレゼントですか?」
「あ、いえ。ピィが誕生日なので渡したくて。」
「そうなんか。ピィにおめでとうと伝えておいてください!」
「はい、ありがとうございます。あ、ハーブティーごちそうさまでした。おいしかったです!」

お金を支払い、おばさんとヤローさんに頭を下げてお花屋さんを後にした。ヤローさんに久し振りに会えたのが嬉しくて舞い上がってしまったけど、ヤローさんには好きな人が居て。優しくされると泣いてしまうかもしれないから、早くこの場から立ち去りたかった。

「……良い子やなぁ。」
「あの子もしかしてヤローさんの彼女?」
「いや、違いますよ。そうなれば良いんですけどねぇ。」


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -