ポケモンセンターの前でタクシー待ちをしていると、どこからか"おーい"と声が聞こえて来た。

「なまえさーん!」
「や、ヤローさん…!」

声のする方へ振り向くと、ヤローさんが風で飛ばされないよう麦わら帽子を押さえながらワタシラガと一緒に走って来てくれていて。ふわふわと浮かぶワタシラガをキャッチすると、私の胸元にすっぽりと収まった。

「あのう、バトルを観てくれていたんですか?」
「えっと…はい。」
「いやぁ、嬉しいなぁ!」
「とても強くて、父も良い経験になったと思います。」
「お父さん、今日のジムチャレンジャーの中で一番輝いてましたわ。」

バトルの後で気持ちが高揚しているのだろうか。砕けた話し方がいつものヤローさんではないみたいだった。仲の良い人の前ではこんな風に話すのかな。時々出る方言らしきものがとても可愛らしい。

「急に帰っちゃうからどうしたんかと思って。」
「あはは…ヤローさんが別世界の人だなと痛感しまして。私みたいなただの一般市民がお声がけするのがおこがましく感じてしまったんです。」
「そんな事はない!ありえん!さっきだってなまえさんの顔見て疲れが吹っ飛んで…」
「えっ?」
「あっ、いや…へへ。」

上手く聞き取れず、聞き返しても笑って誤魔化すように首元のタオルで口元を押さえている。ヤローさんは笑ってるけど、やっぱりあれだけのバトルを何回もするわけだから体力の消耗は凄まじいんだろうな。鞄の中から今朝焼いたクッキーを取り出すと、ヤローさんとワタシラガはきょとんとした表情を浮かべながら小首を傾げていた。

「あの…これ、みなさんで召し上がってください。」
「えっ、本当にいいの?」
「お口に合うか分からないんですけど…。」
「美味しそう!みんなでいただきますね。」

ヤローさんの柔らかな笑顔につられて私も思わず頬が緩む。そんな私を見てヤローさんは覗き込むようにして目線を合わせてくれた。突然の出来事に心臓がどきりと音を立てた。

「ん、やっぱなまえさんは笑顔が一番じゃ。」
「フワワ〜〜!」
「おっ、ワタシラガもそう思うか!」
「ふふっ。」


ヤローさんと別れ園に戻ると、お父さんからメッセージが届いた。あれからヤローさんと話をしたらしく、すっかりヤローさんのファンになっていた。…信じられない話だけど私の事も話題に上がったようで"ヤローさんがお前を褒めていた"と書かれた行を思わず何度も何度も指で撫でた。何度も言うけど、ヤローさんは本当に素敵だ。

テレビを点けると、ちょうど今日のバトルがダイジェストで放送されていた。この後生中継でヤローさんへのインタビューがあるらしい。
ダイジェストが終わり、画面がヤローさんとリポーターの待つターフスタジアムの控え室に移り変わった。最初は当たり障りのない質問ばかりだったけど、徐々に女性向けの質問に変わっていった。

≪優しくて包容力があり、老若男女から絶大な支持を得られていますね。そんなヤローさんの好みのタイプを教えてください!≫
≪ははは、ありがとうございます。好きな女性のタイプか…そうですね、やっぱりポケモンが好きな人が良いですね。≫
≪やはりジムリーダー、そこは譲れませんね!では、彼女にするならどんな方が良いのでしょうか!?≫
≪彼女ですか?うーん…そうじゃなぁ。≫

それまでずっとリポーターの顔を見て話していたヤローさんだったけど、考え込む仕草を見せながら突然カメラに目線を向けた。なんだか目が合っているみたいで顔が熱くなる。…っていうのはテレビの前のみんなが思っているだろうけど。

≪今観てくれているか分からんけど、とても魅力的な女の子が居て。誰にでも優しくてその子の周りに居るポケモン達もいきいきしとるんですわ。ただ、一人で頑張る癖があるから心配でならんのです。≫
≪…あっ、ヤローさん…生中継ですけど大丈夫ですかね?≫
≪勿論大丈夫ですよ。≫

「ヤローさん…好きな人いるんだ…。」

はかいこうせんでも食らったかのような衝撃を受けた。そうだよね、ヤローさんみたいな素敵な人、誰も放っておかないに決まっている。ヤローさんに想われるなんてその人は幸せだな。きっと清楚で、肌が透き通るように明るくて、おまけに白いワンピースが似合いそうだ。

「チュゥ〜〜…。」
「あ、ごめん!おやつの時間だったね。」

インタビューはまだ続くみたいだけど、テレビを消して足元にすり寄って来たピチューを抱きかかえた。いつもは会いたい気持ちでいっぱいだけど、今だけはヤローさんの事を忘れたかった。一度抱いてしまった気持ちは簡単には拭い去る事ができなくて、ポケモン達に気付かれないようにきのみを用意しながら泣いた。


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