お父さんと別れスタジアムに入ると、熱量を肌で感じ鳥肌が立った。後ろの方だけどよく見えそうだ。
暫くしてからヤローさんとお父さんが控室から姿を見せた。向かい合うように立つと、バトルの開始を告げるホイッスルが鳴り響いた。
最初はお父さんが押していたものの、どんどんヤローさんのペースに嵌っていってしまった。

「さぁ、ダイマックスだ!根こそぎ刈り取ってやる!!」

そう叫んだヤローさんの台詞に客席の女性陣から黄色い歓声が上がる。私もその一人で、周りに誰も知り合いが居ないのを良い事に大騒ぎしてしまった。
バトルの結果は、勿論だけどヤローさんの圧勝だった。


「お疲れ様!残念だったね。」
「今回は負けてしまったけど、来年は勝つぞー!」
「クゥ!」

ふとお父さんの手元を見ると、参加賞のボールガイぬいぐるみと一緒に真っ白な色紙を握っていた。

「その色紙、どうするの?」
「ん?あぁ、ヤローさんにサインをもらおうと思ってね。この後ここで交流タイムがあるらしいから。」
「え!そうなの!?」

ヤローさんに会える、それだけで胸が破裂しそうなぐらい音を立てた。ジムチャレンジャーにだけ告知されていたらしく、周りを見ても待っている人はそこまで多くはない。話せるチャンスは十分にありそうな雰囲気だ。

「あ、来た来た!」

奥の扉からリーグスタッフと一緒にヤローさんが出てきた。ジムリーダーとしてのヤローさんに会うのはこれが初めてで、今までずっと知らなかった。だけど、ヤローさんの周りに集まるファンの人達を見て自分とは違う世界の人なんだと思い知らされた。

「おーい!ヤローさーん!」

隣に居たお父さんがぶんぶんとボールガイのぬいぐるみを振り回しながらヤローさんにアピールしていた。ヤローさんもそれに気がついたらしく、お父さんに向かって軽く手を上げていて。隣に居た私にもすぐに気が付いたらしく、いつもの笑顔を浮かべながら手を振ってくれた。

「あ、なまえさん!」
「っ、っあ、えっと…」

ヤローさんが走って来て、思わず後退りしてしまった。ヤローさんがあまりにも大きな声で私の名前を呼んだという事もあって周りの人やサポーターの視線が一気に私に集中し、中には私の事をスマホで撮影する人も居た。

「なまえ!ヤローさんとお知り合いなのか!?」
「…えっ…と…その、ごめんなさいっ!」
「なまえさん!?」

急いでキテルグマをモンスターボールに格納し、逃げるようにその場を後にした。あんな空気の中居た堪れないし、何より上手く話せる自信が無かった。スタジアムに足を運んでおいて逃げるだなんて、ヤローさん不審に思っただろうなぁ。

「園に帰ろう…。」

スマホを見るとお父さんから着信が入っていたけど、≪急に帰ってごめん≫とだけメッセージを入れて鞄にしまいこんだ。


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