「なまえさん、こんにちは!」
「ヤローさん!こんにちは。」

あれから、ヤローさんが来るとポケモン達が吸い寄せられるように大喜びでヤローさんの元へ集まっていく。眉毛と目尻を垂れさせて困ったように笑いながらも、決して手をはね除ける事なくポケモン達と接してくれる。
ヤローさんが来たら中庭にポケモン達を放し、木陰のベンチに座ってヤローさんと話すのがお決まりになっていた。
私自身もそんなヤローさんの横顔に見惚れる事が多々あった。スタジアムの外でも優しくて穏やかなヤローさんに、私はどんどん惹かれていった。

「…なまえさん?」
「あっ、すみません!」

ヤローさんの声が耳に入り、ハッと我に帰る。決して怪訝そうな顔をする事もなくにこりと微笑んでくれた。ヤローさんの膝に乗っているゴンベも頭を撫でられて気持ちよさそうに目を瞑っている。

「なまえさんは偉いですね。見習う点がたくさんあります。」
「いえ、そんな…。いつも一人ですけどこの子達が居るので寂しくもないですし。」
「お一人で?」
「えっ?は、はい。」

確かこの建物自体は祖父母から譲り受けたものであるとは説明していたけれど、一人で切り盛りしている事は言っていなかったっけ。驚いたのか、ヤローさんは元々丸い目を更に丸くさせていた。

「驚いた!てっきり旦那さんがいらっしゃるのかと思っていました。」
「そそそそ、そんな、旦那だなんて!彼氏すら居ないです!」
「そうなんですか?こんなにお綺麗なのに。」

まるで社交辞令を嘘ではなく本当の事のように呟くものだから、胸が高鳴り何も言えなくなってしまった。ヤローさんはとても紳士的な人。相手が嫌がる事は絶対に言わないし、社交辞令もお上手だ。それを頭では分かっていても、実際に言われると舞い上がるぐらい嬉しくなる。

「…っ、すみません!ぼく、変な事を口走ってしまって…」
「い、いえ…。」

ヤローさんのつく嘘は優しくて、温かくて、自然だ。いつもより赤く見えるその頬を首元のタオルでぱたぱたと扇ぐ姿に、私はまた見惚れてしまった。


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