ゆっくりと唇が離れ、二人の間にまた沈黙が生まれた。私…ヤローさんとキス、したんだ。肩は掴まれたままでさっきよりもお互いの距離が近く、本気で顔から火が出てしまうんじゃないかと思うぐらい頬が熱い。恥ずかしさから碌に顔を見れず俯いてしまう私に、ヤローさんは優しく囁いた。

「なまえさん。顔見せて?」
「…っ、ぁ」
「やっぱり君は可愛いなぁ。」
「ヤローさんも…かっこいいです。」
「それだと何だか言わせたみたいじゃなぁ。」
「…ふふっ。」

私が笑ったのを見て、ヤローさんも眉尻を下げて穏やかに微笑んだ。ふと目が合い、再びヤローさんの顔が近付いてくる。潮風で冷めた頬がじんわりと熱を宿した。



ヤローさんとお付き合いを始めてから新たな発見がいくつかあった。月に一度庭に咲いたお花で小さなスワッグを作ってくださるし、言葉やスキンシップでストレートに愛を表現してくださったり、意外とやきもちを焼きだったり、そして私以上に将来の事まで真剣に考えてくださっている。自分はヤローさんに釣り合っていないと思ってしまう事もしょっちゅうあったけど、その度に隣で笑顔を引き出してくださったのだった。

それから月日が流れ、交際からしばらく経ったある日の事。ヤローさんがインタビューで現在一般女性と交際中であると公表し、ガラル国民の注目は一斉にヤローさんに集まった。
目撃情報やパパラッチにより私が交際相手だという事まで判明してしまい、幼稚園の前に度々人が集まるようになってしまった。
不審な人を見つけ次第キテルグマが追い払ってくれたものの、ポケモン達を外で遊ばせる事ができなくなってしまったのだった。
見かねたヤローさんのご両親が農場の敷地内にある空き家を掃除してくださり、ご厚意に甘えしばし住まわせて頂く事になった。
トレーナーさん達も幼稚園の移設を快諾してくださったお陰で、お引越しの準備もすぐに取り掛かる事ができた。

「なまえちゃん、迷惑掛けてごめんな。まさかこんな騒ぎになっちまうとは…。」
「いえ、私こそ住居まで用意してもらって…本当すみません。」
「いやいや!ちょうど部屋も余っとったし、使ってもらえて嬉しいや。」

荷解きもひと段落し、ヤローさんと一緒に外へ出た。とても広いお庭をポケモン達が楽しそうに駆け回っていて、畑の方ではキテルグマがヤローさんのお父様から鍬の使い方を教わっている。

「あはは、さすがキテルグマじゃ。様になっとるなぁ。」
「ふふっ。ここのところずっと室内に居たので、身体を動かせて嬉しいんでしょうね。」
「キテルグマが居てくれたら百人力だわな。」

持ち前の腕力を上手く使って楽しそうに土を耕している。いつもは幼稚園のお仕事を手伝ってくれているけど、本当はこういう力仕事の方が向いているんだろうな。こちらに気付いたらしく、私が手を振ると重い鍬を軽々と持ち上げてぶんぶんと振り返してくれた。

「ねぇ、なまえちゃん。」
「?はい。」
「僕は君とこうやって一緒に居られて本当に幸せだ。僕を選んでくれてありがとうな。」
「わ、私もヤローさんと同じ気持ちです!」
「ありがとう、なまえちゃん。」

ヤローさんの手が私の手をそっと包み込み何かを手渡された。それはいつものスワッグではなく、羽毛のようにふんわりとした花弁がとても可愛らしいかすみ草の花束だった。茎を結ぶ萌黄色のリボンがヤローさんのイメージにぴったりだ。

「素敵…!ありがとうございます。」
「うん、やっぱりなまえちゃんはかすみ草がよく似合うな!綺麗だ。」

ヤローさんが愛情をたっぷり込めて育てたかすみ草達は、言い表せないくらいとても綺麗で。いつかヤローさんのお嫁さんになる日が来たらこの花束を使いたいと伝えたら、その頃にはドライフラワーになっとるな、と笑われてしまったけど。しばらく花束に見惚れていたら頬を優しく撫でられ、そのままヤローさんに抱き寄せられた。

「愛してるよ。」

花束が潰れないように片手で持ちヤローさんの首元に腕を回すと、より一層強く抱き締められた。お日様とシャンプーが入り混じったヤローさんの匂いが鼻をくすぐり、とても心地良い。

「さて、と。なまえちゃん達の歓迎パーティーまで時間があるし、荷解きもあともう少しだしやっちまおっか!」
「はい!」


風に乗って、花束に結ばれている萌黄色のリボンがふわりと靡いた。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -