翌朝、教室に入ると友人達は既に登校していて私を見つけた途端に慌てて駆け寄ってきた。二人は静かにアイコンタクトを取ったかと思えば、意を決したようにゆっくりと口を開いた。

「ナマエちゃん。あれから大丈夫だった…?」
「夜にメッセージを送ったけど全然既読がつかなかったから心配してたんだ。」
「えっ、ごめん!バタバタしててスマホも見ずに寝ちゃったみたい。」

慌ててポケットから取り出したスマホのディスプレイには、確かに"メッセージ3件"と文字が浮かび上がっている。どうやらかなり心配してくれていたらしく、普段通りの私を見て友人は安堵のため息をついた。

「課題、大丈夫だった?」
「うん。なんとか終わらせられたよ。ペパーくんが色々と手伝ってくれて……あっ、おはよ!」
「…おす。」

席に着いて程なく、いつも通り大きなリュックを背負ったペパーくんが教室に入ってきた。噂をすれば何とやら、だ。
友人達はペパーくんが苦手みたいで、またお昼休みね、と言いそそくさと去って行ってしまった。仕方なく隣に座っているペパーくんに声を掛けてみる。

「いよいよ今日が課題提出日だね。」
「あー…そうだな。」
「あっ、そういえば教科書なんだけど明日貰えるみたいなんだ。」
「え?ああ…良かったな。」
「…ペパーくん、まだ眠いの?」
「べ、別に。」

ペパーくんから返ってくるレスポンスは中身の無いものばかりでまともに会話のキャッチボールもできやしなかった。かといって別に眠いわけでもないらしい。

「あの、さ。これ…昨日言ってたから。」

突然小さな紙袋が机に置かれた。入っていたのは可愛らしいワックスペーパーに包まれたサンドウィッチだった。マーマレードの甘い香りが紙袋の中から漂ってくる。

実は昨日、寮生活って大変だよねという話から、パルデア地方に引越してきた次の日の朝に母が作ってくれたマーマレードサンドが美味しかったと私がぼやいたのだ。ペパーくんは母の手料理を羨ましいと言い、それっきりで話は終わったものだと思っていたのだけど。

「これ…私に?」
「お前の母ちゃんみたいには上手く出来てねえかもだけど。」
「ありがとう…本当にありがとうペパーくん。」

鼻の奥がつんと痛くなり、涙で視界が滲んだ。正直なところ、慣れ親しんだ地方からパルデア地方に引越してきて、右も左も分からないだけでなく更に親元を離れて寮生活を送っているうちにホームシックに陥ってしまっていたのだと思う。

ぶっきらぼうなところもあるけれど、みんなが思っている以上にペパーくんは温かくて、優しい人なんだ。

「ペパーくんのそのさりげない気遣いができるところ、本当に素敵だよね。」
「だーっ、またお前はそういうこと平気で言う…!」

マーマレードサンドを見つめる私の隣で"感情どストレートちゃんか?"なんて言っているのが聞こえてくる。

それでも、ペパーくんの何気ない気遣いが本当に嬉しくて孤独を感じていた私の心をすっと軽くしてくれたのは紛れもない事実だ。それと同時に、僅かながらもペパーくんに対して新たな感情が自分の中で芽生え始めていた。

「大切に味わって食べるね。」
「…おう。」
「あと、家庭科の課題、絶対に合格もらおうね!」

手をグーにしてペパーくんの前に突き出すと、ため息をつきながらも同じように手をグーにしてこつんとぶつけてくれた。


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