放課後の時間がやってきた。ペパーくんは昼休みで帰ってしまったらしく、その後の授業には参加しなかった。というか出席数で進級できるのだろうか。親が有名人なら特例で難無く進級できたりするのかな。…なんて、別にペパーくんが留年しようが知ったこっちゃないのに、エントランスに着いても何故かずっとペパーくんのことばかり考えていた。

ぼけっとしながらアカデミーの高い天井を眺めていると突然フガフガという妙な息遣いと同時にズボンを引っ張られる感触があり、下を向くと毛むくじゃらのポケモンと目が合った。

「どうしたの?」

頭を撫でて尋ねてみるとポケモンは大きな身体をひっくり返らせて左前足を力無く揺らし、何かを必死に訴え始めた。足を怪我したのだろうか。

「これ…ガム?」

毛をかき分けてぎょっとした。毒々しいピンク色の粘着物が肉球にべったりとへばりついていたからだ。困ったことに毛にまで絡みついてしまっていて、ただ闇雲に引っ張るだけではガムを無駄に広げてしまうだけだった。
毛むくじゃらのポケモンも困り果ててしまい、きゅうきゅうと鳴き始めた。

「ベタベタして気持ち悪いよね。どうやって取ろうかな…。」
「クゥ、クゥン。」
「おい、何やってんだ!」

肩を思いきり押され、物凄い形相をしたペパーくんが私達の間に割り込んできた。どうやらこの子はペパーくんのポケモンだったらしい。

「お前、俺のマフィティフに何してやがる!」
「待って!その子、足にガムが引っ付いて取れなくなってて辛そうにしてるんだよ。」
「…マフィティフ、そうなのか?」
「クウゥン…。」

マフィティフと呼ばれた毛むくじゃらのポケモンは、私にしてくれたようにガムがへばりついた左前足を揺らした。肉球を見たペパーくんの眉毛がみるみる下がっていく。

「悪い!まさか助けてもらってたとは…。」
「い、いいよ。しかもまだ取りきれてないし。」
「…なあ、家庭科室にサラダ油を貰いに行ってくれねえか。それで取れる。」
「サラダ油ね。分かった!」

大急ぎで家庭科室へ向かった。慌てふためく私の姿を見てサワロ先生もたじろいでいたが事情を話せばすぐに戸棚からサラダ油を取り出し持たせてくれた。

「サラダ油貰ってきた…!」
「サンキュ!」

サラダ油がペパーくんの手に渡り、手際良くハンカチに染み込ませてマフィティフの足に優しく馴染ませていく。マフィティフが不安そうな顔で私を見ていたのでマズルを撫でてやると、ピーナッツほどの小さな目を僅かに細めた。

「実は昔、まだマフィティフがオラチフだった頃に同じことがあってさ。」
「それじゃあ初めてのことじゃなかったんだね。」
「ああ。で、こんな感じで油を馴染ませるとガムが溶けるんだ。ほら、ガムってチョコと一緒に食ったら溶けて無くなるだろ。あれと同じ原理。」
「なるほど。あっ、確かになんか色が薄くなってきた!」

まるで化学の実験みたいに油が馴染めば馴染むほどガムの色が薄まっていく。仕上げにしっかりと拭き取ればガムは跡形も無く消え去った。

「無事に取れて良かったね!」
「ああ。ナマエ、だっけか。マフィティフのこと助けようとしてくれてありがとな。それからろくに確認もせず悪者って決め付けたりして、どう詫びたら良いか…。」
「いいよ、本当に大丈夫だから。それより私も昼休みに食堂で失礼なこと言ってしまってごめんなさい。」
「それは別にいい。元はと言えば俺がヤな奴みたいな態度取ってたからだし。」
「ストップストップ!じゃあお互い悪かったってことで、謝り合いっこは終わりね。」
「…ん、そうだな。じゃ改めて、課題頑張ろうぜ。」
「うん!」
「バウッバウッ!」


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