それから数日間、ペパーくんは学校に来なかった。
何度考えても私はペパーくんのあの態度に納得できないし、何が何でもあの課題を任せっきりにしたくない。それなら先に課題を終わらせてやろうとテーブルシティの食材屋に駆け込み何とか一日でレポートを仕上げた。

ちなみに私はペパーくんのことが大嫌いだ。出来れば関わりたくないけれど、学校に来てくれないとレポートを渡せないし、かといって学校に来られたら教科書を見せてもらわないといけないので個人的にはどっちにしろ最悪である。

「…あっ。」

大きなバッグを背負ったペパーくんが教室に入ってきた。初対面の時も思ったけど一体何が入っているのだろうか。椅子を引く時にバチッと目が合ったが、すぐに逸らされた。

「おはようペパーくん。はいこれ、家庭科の課題。」

嘘くさい笑顔を貼り付けて渾身のレポートを差し出すと、怪訝な顔で私を一瞥した。

「やっぱり任せっきりにするのは悪いかなって。」
「余計なお世話。」
「なっ、」

落ち着けナマエ、今言い返したらまたこの前みたいになる。深呼吸をしてもう一度レポートを差し出した。長い沈黙の末、ようやくレポートがペパーくんの手に渡った。

はあ、やっぱり大嫌い!



「…っていうことがあったの!本当にムカつく。」
「それは腹が立つね…。ナマエちゃんお疲れ様。」
「グループワークで協調性が無いのは困るよねえ。」

昼休み、食堂でここ最近の最低最悪な出来事を二人に聞いてもらった。話すと更に腹が立ってきてしまい、サンドイッチから溢れてお皿に落ちた野菜をフォークで突き刺す力がどんどん強くなる。

「ペパーくんが一人で居る理由がよーく分かったよ。本当に本当に大っ嫌い!」
「あっ、」
「…ナマエちゃん、後ろ。」

向かいに座っている友人の表情が固まる。振り向くとペパーくんが眉間に皺を寄せて立っていた。今の全部聞かれてた、よね。ていうか何の用?頭の中でぐるぐる考えていると痺れを切らしたのかルーズリーフを見せて貼り付けていたミニトマトの写真をトントンと人差し指で叩いた。これは私が書いたレポートだ。

「ここ間違ってる。」
「えっ、どこ?」
「ミニトマトの選び方。お前、ヘタに張りがあるのが理想って書いてるけど本当はヘタが萎びている方が熟してて旨味を強く感じられる。」
「そうなんだ…ごめん。写真、撮り直すね。」
「なら俺も行く。」
「えっ!別に一人で行けるよ。」
「これ見ろ。」

今度は家庭科の授業で配られたプリントを見せてきた。ペパーくんの人差し指の先にはサワロ先生の手書きであろうパチリスのイラストと、力強いフォントで"完成したサンドイッチと共に仲良くツーショットを撮ろう!"と書かれている。つまり、ペパーくんと一緒に写真を撮ってレポートに貼り付けなければならないらしい。

「こんなの書いてあったっけ…。」
「俺のだけに書いてあるわけねえだろ。」
「そ、そうだよね。」
「じゃ、今日の放課後にエントランス前な。」
「分かった。」

友人二人に声を掛けられるまで、離れていくペパーくんの後ろ姿を立ち竦んだまま見つめていた。

「びっくりした。」
「ナマエちゃん、ペパーさんが居るのすぐに気付けなくてごめんね。」
「ううん、大丈夫…。」

この場にもうペパーくんは居ないのに、何だかずっと胸の辺りがざわざわしている。
悪口を聞かれてしまったからなのか、間違いを訂正されたからなのか。放課後にまた会わなければいけなくなったからなのか、自分のことなのに心に靄がかかっているようだった。


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