「筆記用具と予備のルーズリーフも入れたから、初日はこれで大丈夫かな…。」

真新しいバッグに明日の用意を詰め込み、粗方片付いた部屋を見渡してそのままベッドに倒れ込んだ。ファブリックに前の部屋の匂いが染み付いていて、深呼吸するととても落ち着く。

親の仕事の都合でパルデア地方に引っ越すことになったと初めに聞かされた時は新しい学校に馴染めるのか不安でたまらなくて毎日泣いていたけど、飛行機から見たパルデアの広大な景色や、おまけに庭付きの新しい家を見たらそんなネガティブな気持ちもどこかへ吹き飛び新生活への期待がどんどん膨らんでいった。

「明日が楽しみだなあ…。」




翌朝、皺一つない制服に袖を通してアカデミーに登校し、校長室で諸々の手続きを終えた。心臓破りの階段のせいで明日は足が筋肉痛になりそうだ。
私は二年の文系コースに転入することになり、担任のセイジ先生に連れられ教室に案内してもらった。

「クラスメイト達はみんな優しいからね。リラックスリラックス!」
「はい…!」

セイジ先生に続いて教室に入ると、クラスメイトの視線が一気に集まった。ここで上手く挨拶できるかによって今後のアカデミー生活が決まるから絶対に粗相はできない。

「グッドモーニング、親愛なるおヌシ達!今日からこのアカデミーでおヌシ達と共に学ぶことになったニューフェイスを紹介するよ!」

セイジ先生がにこりと微笑んで私を見る。今度は私の番だ。すう、と息を吸った。

「き、昨日パルデア地方に引っ越してきました。ナマエといいます。よろしくお願いします…!」

私がお辞儀をすると、わああと教室が盛り上がり拍手が沸き起こった。ひとまず挨拶は上手くできて良かった。

「それじゃあおヌシの席は…ちょうどペパーの隣が空いてるね。ペパー、ハンズアップ!」

セイジ先生にそう言われ、一番後ろの窓際の席に座っている髪の長い男の子が控えめに手を挙げた。名前はペパーくんというらしい。あまり目立ちたくないのか、私が挙手に気付くとすぐに手を下げてしまった。

席に着くと、ペパーくんと目が合った。澄んだ水色の瞳がとても綺麗で思わず声が漏れそうになってしまったのはここだけの話だ。

「あの…ペパーくん、だっけ?よろしくね。」

お友達になれるかな、なんて淡い期待を抱きペパーくんに声を掛けたが、軽く会釈をしてすぐに窓の方へ向いてしまった。なんだか拒絶されたような気がして少し胸がちくりと傷んだ。

「それじゃあこのまま一限目のセイジの言語レッスンいくよ!」

セイジ先生の合図でクラスのみんなが一斉に教科書を広げる。やばい。急な転入ということもあり今週いっぱいは教材が届かないらしく、隣の席の人に見せてもらうようにとセイジ先生に言われていたことを思い出した。

ペパーくんはというと当然こちらに目もくれず頬杖をつきながら片手でパラパラと教科書を捲って目的のページを探している。仕方なく、恐る恐るペパーくんに声を掛けた。

「あの…ペパーくん。」
「…。」
「教科書見せてもらえないかな?実はまだ届いてなくて…。」

無視されると思いきや意外にもすんなりと聞き入れてもらえて、お互いの机の間に教科書を置いて見せてくれた。

「あ…ありがとう!」

ペパーくんって不器用なだけで本当は優しい人なのかもしれない。



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