想いが通じ合い、晴れて私達は恋仲になった。後ろから抱き締められて背中越しにペパーくんの体温を感じる。気を抜くと顔が緩んでしまうくらい幸せだけど、一つだけ、気になることがあった。

「ねえ。あの人に、言わなくていいのかな。」

それまでずっと私の髪の毛を触っていたペパーくんだったが、あの人の話をした途端、私の肩に顔を埋めて項垂れた。表情は見えないが、どんな顔をしているか大体予想はつく。

「それなんだよなあ…。」
「言わないままってわけにもいかないのかな、って。」
「んーまあ…そうなんだよな…。よし、決めた。今から話しに行く。」
「えっ、今から?」
「こういうのは早い方がいいさ。当然ナマエも来てくれるよな。」
「私は….、」

人が失恋する瞬間に立ち会うなんて、私は。

「あまり行きたく、ない。」

下唇をきゅっと噛んだ。沈黙が僅かに流れたが、すぐに優しく頭を撫でられた。

「そっか、すまん。それなら俺一人で行く。」

ペパーくんがメッセージを送っている間、少しだけ後悔した。本当にこれで良かったのだろうか。こんなの、よく考えれば後ろ足で砂をかけるようなものだ。小さくため息をつくと同時に、ロトトと小さく通知が鳴った。

「早速返事来た。ナマエにも会いたいだとよ。どうする?」
「そ、それなら…行ったほうが良いのかな。」
「そんじゃ二人で行くって送るぜ。」
「うん、分かった。」



待ち合わせ場所は私がペパーくんと和解したあのベンチだった。ペパーくんは背もたれに軽く身を預けて座っているのに対し、私は背筋をこれでもかというぐらい伸ばして修羅場になる瞬間を今か今かと待っている。まるで背中に針金を入れられているような気分だった。
程なくして、一人の女の人が近寄ってきた。きっとあの人だろう。

「よっ、お待たせ。」

女の人と目が合い、慌てて頭を下げた。

「単刀直入に言うけど、付き合うことになった。」
「うん、おめでとう。」
「親が決めた婚約の話は、完全に無かったことにしてほしい。」
「わかった。ねえペパー。彼女、借りてもいい?」
「は?」
「ペパーを好きな者同士、話したいことがあるの。はい、あっち行った!」
「お、おい!ナマエ泣かすなよ!」
「わーかってるって。」

女の人に背中を押されて、ペパーくんは歩いていった。

「さて、あなたとは初めましてだよね。」
「は、はい。」
「あは、なんて顔してんのさ。別に取って食おうなんざ思ってないよ。悔しいけど、あなたの勝ち。」
「どうして、そんな…。」
「ん?簡単なことだよ。悔しい悔しいって思えば思うほど自分が惨めでしょ。落ち込むの、嫌いなんだよね。」

女の人が歯を見せて笑う。失恋したとは思えない程に清々しくて、言っていることの理解は出来ても、共感は出来なかった。

「っていうのは建前。本音を言うと、あなたには敵わないって思った。」
「私に…?」
「あなたの話をペパーとしたことがあったんだけどさ。付き合ってるって本当?って。ペパー、何て言ったと思う?」


"可哀想だから転入生にあんまり期待させちゃダメだよ?"
"は?お前何言って、"
"だって私達、将来を約束した仲じゃん。"
"あのさ。俺もお前も親に振り回されて最悪だったけど、それとこれとは別だ。将来を約束したのはあくまでも親同士の話だろ。それに…何で噂が流れてるのかはよくわからんけど、噂じゃなくて、ちゃんと付き合ってるって言えるようになりたい。"
"ふーん。転入生のこと、超好きじゃん。"
"う、うるせえ。"


「ペパーくんがそんなことを言ってたんですね…。」
「さっきペパーから話がしたいって連絡が来た時に、失恋するんだなって直感したよ。嫌味の一つでも言ってやろうと思った。でもやめた!」
「どうして?」
「ペパーが、あまりにも嬉しそうだったから。」

ペパーくんを見つめる女の人の横顔は慈愛に満ちていて、ようやく私は理解できた。きっとこの人も、ペパーくんの幸せを一番に願っていたのだろう。

「だから、そんな不安そうな顔しないで、笑顔でいて。そしたら私も、ペパーのこと完全に諦められるだろうから。」
「…はい!」

女の人が大声でペパーくんの名前を叫び、それに気付いたペパーくんが慌てて駆け寄ってきた。ペパーくんは私が意地悪されていると思ったのか、和やかなムードに包まれた私達の顔を見て頭にハテナを浮かべている。

「二人とも、何の話してたんだ?」

女の人と顔を見合わせて笑った。

「「内緒!」」


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -