「ペパーくんが言ったこと、忘れられないし、忘れたくない。」
「…それ、ちゃんと意味分かって言ってんだったら、改めて言わせてほしい。」

ペパーくんはそう言うと真剣な面持ちで私の右手をきゅっと握り締めた。その両手から伝わる温もりが、私の胸をどきどきと高鳴らせる。

「ナマエが好きだ。」

ずっとずっと聞きたかったその言葉が私の耳へ届くと同時に、ブロンドの前髪がふわりと揺れた。真っ直ぐな瞳とは裏腹にペパーくんの手は微かに震えていて、そのアンバランスさがとても愛おしく思えた。

「私も、ペパーくんのことが好き…!」
「嘘じゃないよな?本当に好きでいてくれてるんだよな?」
「嘘なんかじゃない。世界で一番大好き!」
「や…やったあ…!」

まるで花の蕾が開くようにペパーくんの表情がどんどん明るくなっていき、両手でぎゅうっと抱き寄せられた。男の子らしいがっちりとした身体つきを制服の布越しに感じてしまい、更に鼓動が速くなった。そよそよと穏やかに吹く風が、今の火照った身体にはとても心地良く感じる。

「両思い…へへ、両思いか…。」
「うん…。」

見つめ合いながら想いが通じた幸せを噛み締めていると、ペパーくんの顔がゆっくりと近付いてきた。指を絡めて、触れるだけのキスを何度も何度も繰り返す。優しく肩を掴まれて、されるがままに押し倒された。いつもは隠れている右側の瞳が露わになった。初めて出会った時も確か、この澄んだ水色の瞳がとても綺麗だと思った。

「俺さ、誰かを愛することも、誰かに愛されることも、俺の人生には無いもんだと思ってたし、必要ないって思ってたんだ。」
「ペパーくん、」
「けど、ナマエが居てくれたから変われた。俺のろくでもない人生に色をつけてくれて、本当に…ありがとう。」

ペパーくんの瞳から溢れた涙が、私の顔にぽたぽたと零れ落ちる。目の前の濡れた頬に触れ、涙を指で拭った。人魚の涙は真珠でできていると昔読んだ童話に書かれてあったけれど、ペパーくんの涙は水晶でできたさざれ石みたいだった。それぐらい、美しいものに見えたのだ。

「泣かないで、」

ペパーくんの言葉の一つひとつが重く、胸に深く刺さっていく、そんな気分だった。ろくでもない人生だなんて、そんな風に思ってほしくないよ。手を差し伸べてあげる大人が一人も居なかった腹立たしさや、もっともっと早く出会えていたらというどうしようもない苛立ちが、ふつふつと沸いてくる。

泣かないでなんて言いながら私も泣いてしまっていて、気が付けば自分のものなのかペパーくんのものなのか分からない涙でびしょびしょになっていた。

「ずっと好きでいるから、愛してるから、笑ってて。ペパーくんのこと大好きだから、ねえ、お願い。」

親に叱られた子供のようにしゃくり上げながら必死で言葉を紡ぐ。ペパーくんはほんの一瞬だけ顔を歪ませて、涙をもう一粒零した。


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