以前にも連れてきてもらったペパーくんのお気に入りの野原に到着すると、それまでずっと繋がれていた手がゆっくりとほどけた。ペパーくんは私を見て何か言いたそうにしたが、「やっぱ、何でもない。」とだけ呟きそそくさとピクニックの準備を始めてしまった。

「できたぜ。」
「あ、ありがとう。」

ペパーくんお手製のロイヤルミルクティーが注がれたマグカップを受け取り、深呼吸をして茶葉の香りを肺いっぱいに吸い込んだ。ペパーくんが何を言いたかったのかずっと気になっていたけど、なんでもないと言われた以上深く追及することもできるわけがなく、もやもやとした思いはロイヤルミルクティーと一緒に飲み込んだ。

そういえば、友人達に返事をしてなかったな。そう思いお礼のメッセージを送ると、まるでトーク画面を開けて返事を待っていたかのように速攻で既読がつき、程なくしてレスポンスがついた。
向こうは今日は創立記念日なので授業が無く、とりあえず集まってはみたが、暇を持て余しておりポケモンセンターで駄弁っているらしい。
ナマエは授業中じゃないのかと尋ねられたので、授業をサボって外に居ると送ればまた即座に既読がついた。
ロトロトロト…と電子音が鳴り、スマホがゆらゆらと宙に浮き着信を知らせる。通話開始ボタンを押すとすぐにテレビ電話画面へと切り替わった。

「サボりのナマエちゃん、おはよー!」
「ちょ、声デカっ。」

隣に居るサボり仲間のペパーくんをちらりと窺い見てみたが、気にしないようにしてくれているのかこちらを見ずにロイヤルミルクティーを飲みながらフラべべがプリントされた可愛らしいケースに包まれたスマホを触っている。

友人達は私が微妙に隣へ注意を向けたことに気が付いたらしく、画面の中でより一層声を弾ませた。

「ねえねえ、隣に誰か居るの?」
「私達にも紹介してよ!」
「彼氏だったりして?」
「早く早く!」

そうは言っても、ペパーくんを紹介したら絶対に冷やかすに決まってるだろう。嫌な思いをさせてしまうぐらいなら、隣には誰も居ないと嘘をついてこの場を収めようと思ったのだけど。

このまま私が誤魔化しても大盛り上がりな女子達は落ち着かないと思ったのか、ペパーくんはマグカップを置いてスマホの画角に入るようにぐっと身体をこちらへ寄せた。
シャンプーなのか整髪料なのか分からないけど、やさしい石鹸の匂いが至近距離でふわっと漂ってきて、顔が一瞬にしてカジッチュのように赤く染まる。

「…どうも。」
「えっ!男の子!?」
「待って待って待って!」
「彼氏できたなら教えてよー!」
「しかも超格好良いし!」

ペパーくんが画面に写った瞬間、友人達はこれ以上ないほどに騒ぎ立てた。
確かに、元気でねと涙を流して遠い地方へ引っ越した友人が数週間そこらで顔の良い男の子と学校をサボってよろしくやっていたら、恐らく私も同様のリアクションをとるだろう。
だけどそれよりも、今は隣で質問攻めに遭っているペパーくんを助けなければ。

「みんな、ペパーくんはそんなんじゃないから!ただの友達なんだって!」

言ってはみたが、私の声は全く届いていないようだ。ああもうこれじゃ埒が明かないと勢い良くスマホを鷲掴む。

「ごめん後でかけ直す!」

半ば叫ぶように言い、慌てて通話終了のボタンを連打する。見慣れた待受が表示され、嵐のような通話は幕を閉じた。

「ごめんね、みんな興味津々で…。」

怒らせてしまったのかペパーくんは目を伏せてため息をついた。私はというとどうしようどうしよう、と頭の中がこんがらがっていて。こんな時なんと言えば良いのか、上手く言葉が出てこない。
この重い雰囲気には似つかわしくない穏やかな風が吹き、ペパーくんのふわふわとした髪をいたずらに靡かせた。

「ナマエは、誰とでも手繋いだりすんのか?」
「えっ?」
「散々意識するようなこと言ってきてさ、それでもダチ止まりなんだな。」
「ペパーくん、ちょ、ま」
「俺ばっかりお前のこと好きで…馬ッ鹿みてえ。」

普段のペパーくんからは想像もつかないような甘い台詞を畳み掛けるように吐き出していく。一瞬、タチの悪い夢を見ているんじゃないかと思った。だけど、手元にある熱々のマグカップも、それに負けないぐらい熱い頬も、ばくばくと加速する心臓も、この場を取り巻く何もかもが本物リアル だった。

「悪い…今言ったこと全部忘れてくれ。」
「それって、忘れられないって言ったら、どうなるの?」
「俺がお前のこと、諦められなくなっちまう。」

ペパーくんの青く澄んだ瞳が私を捉える。いつもはクールなのに今日はどこか熱っぽくて、下腹部の辺りがきゅんと疼いた。


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