翌朝、カーテンの隙間から射し込んだ陽が眩しくて目が覚めた。寝ぼけ眼でスマホを見ると昨日付けでセイジ先生からメールが届いている。体調を気遣うメッセージの下には、教科書が届いているから登校したら職員室に来るようにと書かれていた。

教科書が届くのは助かるけど、これからはペパーくんに教科書を見せてもらえなくなると思うと素直に喜べない自分が居た。机を引っ付け、教科書を見る振りをしてすぐ近くにあるペパーくんの横顔を気付かれないように眺めるのが何気無い幸せだったのになあ。

朝起きてすぐにペパーくんのことを考えるなんて、私も中々惚れ込んでいるなと思う。
昨日だって結局ランドリールームまで着いてきてくれて、洗濯の間だけでなく乾燥している間も付き合ってくれた。それだけでも十分だったのに"アカデミーの敷地内とはいえ夜に女子を一人で歩かせるのはダメだ"って言われて部屋まで送ってもらって。

「女子…女子……ふへへ。」

ペパーくんのことだから決して他意は無いのだろうけど、それでも好きな人に女性扱いしてもらえたのが嬉しくて頬がどんどん緩んでいく。昨日、帰り際に"また明日な"と言っていたから、きっと今日もアカデミーで会えるだろう。ペパーくんに会ったらどんな話をしようかな。期待に胸を弾ませて制服に手を伸ばした。



「少し早すぎたかな…。」

ペパーくんに会いたい気持ちが先走ってしまい、少し早めにアカデミーに着いてしまった。ペパーくんは結構ギリギリの時間に登校するから、別に私が早く登校したところで何も変わらないのだけど。
職員室は何度来ても落ち着かなくて、悪いことをした訳でも無いのに無意識に背中を丸めてしまう。廊下でウロウロしているわけにもいかないのでノックをしようと右手を胸の高さに持ってきたその時、勢い良くドアが開いた。

「うお、」
「わっ!」

なんと、職員室の中からペパーくんが出てきた。向こうもかなり驚いたらしく目を丸くしてこちらを見下ろしている。

「お、おはよ。ペパーくんが職員室に居るなんて珍しいね。」
「はよ。あー…サワロせんせに質問があって、ちょっとな。お前は?」
「私は教科書を受け取りに来たんだ。」
「ふーん…んじゃここで待っとくから一緒に教室行こうぜ。」
「えっ、ありがとう!」

まさか朝からこんなミラクルが起きるなんて思ってもみなかった。というかペパーくんって朝から爽やかだなあ。
そんなことを思いながら控えめに職員室に入ると、室内から誰のものだか分からないがコーヒーの香りが漂ってきた。

「失礼します。あっ…セイジ先生、おはようございます。」
「ナマエ、グッドモーニング!昨日リーヴ・アーリーしてたけどお身体は大丈夫ですかな?」
「はい、大丈夫です。ご心配をおかけしてしまってすみません。」
「HAHAHA!元気になったなら良かった良かった。これ、昨日メールで送った教科書ね。」
「ありがとうございま…わっ!」

教科書類を受け取った瞬間重さによろめいてしまい、セイジ先生に笑われてしまった。

「そうだよね、レディーが一人で運べる重さじゃないんだわな。」
「い、いえ…!頑張ります!」
「オー!おヌシ、フィジカルあるね!」

腕の血管が浮き出そうなぐらいに重たい教科書を抱えてふらふらと職員室を出る。廊下の壁にもたれて腕を組んで待っていたペパーくんが慌てて駆け寄ってきた。

「お待たせ!」
「ちょ、危ねえちゃんだろうが!俺が持つから貸せ!」
「だ、大丈夫!」

押し問答の末、持っていた教科書を全て取られてしまった。教科書を取られる瞬間に手が触れてちょっぴりきゅんとしてしまったのは秘密だ。それにしてもあんなに重いものを軽々と持って歩くペパーくんは、やっぱり男の子なんだなあと思う。

「ごめんね…重いよね。」
「全部へーき!むしろこういう時は俺のこと頼ってほしいっつーか。困ったことあったらいつでも言えよな。」
「う、うん。ありがとう。」

ペパーくんがどういう意図でそんなことを言ったのか訊ねるのが怖くてそれ以上は何も言えなかった。臆病風に吹かれてへっぴり腰な私の恋は、いつか叶う日がくるのだろうか。


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