鞄を取りに教室へ戻り足早に部屋に帰ってきたが、部屋着に着替える気力もなくそのままベッドに飛び込んだ。まさか人生初の恋がこんな結末になってしまうとは神様も意地悪だ。それだけでは終わらず、ペパーくんに嘘をつかれたのも内心とてもショックだった。

「二人で課題、頑張ったのになあ…。」

ため息が静かな部屋に溶けていく。少し行儀が悪いが片足でカーテンをめくると空は青々と晴れ渡っている。

「…洗濯しよ。」

本当は朝までベッドの上でダラダラしていたかったが、このままどんよりとした気持ちのまま居るのも良くないと思い、サニタリールームに置いてあった三日分の洗濯物をランドリーバッグに詰めた。

アカデミー内にあるランドリールームは曜日や時間によっては混雑しているが、今は昼の授業中ということもあり静かだった。空いているドラム式洗濯機に洗濯物を放り込み、液体洗剤を目分量で適当に流し入れた。
ついこの間まで母がやってくれていた洗濯も寮に入れば全て自分でやるしかないのだけど、家事の大変さを知ることができてある意味良かったなと思う。

さて、洗い上がるまで三十分ほど時間があるので部屋に戻ってバスタブを磨くか。

「ナマエ?」
「…!ペパ、くん…。」

名前を呼ばれ声のするほうを見れば今一番会いたくない人がそこに居た。ペパーくんも洗濯をしに来たらしく、片手にはランドリーバッグを持っていた。

「お前がこんな時間にここに居るなんて珍しいな。」
「ま、まあ…。」

とてもじゃないが今このメンタルではペパーくんの目を見れなくて、どんどん視線が下がっていく。ランドリールームの床のタイルがやたらと艶々光っているように見えた。

「お、おい。体調悪いとかか?」
「大丈夫だから。…あと、マーマレードサンドありがとう。美味しかった…。」

一刻も早くこの場を立ち去りたくて早足でランドリールームを出ようとしたのに、既のところでペパーくんに手を掴まれてしまった。

「お前、顔色悪いぞ。」
「離して!!」

私の荒々しい声がランドリールームに響き渡る。ペパーくんの手が離れた。

「…悪い。」
「もう、話しかけないで。」

それだけ言うと私はペパーくんの顔も見ずに夢中で部屋に向かって走った。お願いだから、これ以上惨めな気持ちにさせないで。

部屋に戻ってベッドに潜り込み、子供のようにわあわあと泣き喚いた。疲れてそのまま眠ってしまい、次に目を覚ました時は外はもう真っ暗だった。時刻は夜の八時。恐らく私の洗濯物も外に放り出されているだろう。下着とか入ってるから放置するのは少し嫌だったけど、今からランドリールームに洗濯物を取りに行く気力も無かった。

電気もつけずに真っ暗な部屋で何も考えずに大の字になっていると、突然インターホンが鳴った。友人達だろうか。のそのそとベッドから出てドアを開けた。そこに立っていたのは友人ではなく、ペパーくんだった。

「どうして…?」
「その、ランドリーバッグに部屋番号書かれてたから。」
「そう…。」
「話がある。良いか?」

私がゆっくりと首を縦に振ると、ペパーくんは安堵の表情を浮かべた。さっきはあんな風に啖呵をきったくせに、私の顔色を伺いながら話をする姿を見て胸が痛くなり、断れなかったのだ。


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