ペパー先輩の部屋がある寮棟は私の部屋がある寮棟とあまり変わらなかった。隣を歩いているペパー先輩はやけに饒舌で、私はというと緊張して何の面白みもない受け答えばかりしていて、投げられたボールをただただ打ち返しているような、そんな気持ちだった。好きな人の部屋に今から遊びに行くというのだから無理はないか。

「俺の部屋、ここだぜ。」

そう言うとペパー先輩は慣れた手つきで鍵を開け、私に部屋の中へ先に入るよう目で促してみせた。

「お、おじゃましまぁす…。」

こ、これがペパー先輩の部屋…!一歩部屋に入った瞬間からスープの美味しそうな匂いと、ペパー先輩が近くに来た時にふわっと漂ってくるあの良い匂いと、若干の男子っぽい匂いが一気に押し寄せてきて語彙力がどこかに飛び去ってしまった。
呆然と立ち竦んでいると、後ろから両肩をポンと軽く叩かれた。

「ほら、後ろ詰まってんぞ!」
「ギャッ!!!」
「っははは!そんなびっくりすることか?びびりちゃんだなー!」

寝ぼすけちゃんなペパー先輩に言われたくないやい!とは言えずもごもごと口を噤んでいると、部屋でお留守番していたマフィティフくんが走ってお出迎えに来てくれた。
バフッ!という声に反応するように腰に付けたモンスターボールが震える。ペパー先輩に許可を取りマフィ子を出してやれば二匹は大喜びであっちを向いたりこっちを向いたりして飛び跳ねた。

「マフィ子、今日はえらくおしゃれしてんのな!バッチリ可愛いちゃんだぜ!」
「バフッ!」

ペパー先輩に褒めてもらえたのがよっぽど嬉しかったのか、お気に入りのリボンを揺らしてペパー先輩の顔を舐めている。羨まし…じゃなくて!

「今からお勉強の時間だから、マフィ子はマフィティフくんと遊んでてね。」
「ワフ!」
「バフバフッ!」

マフィ子も納得してくれたらしく、マフィティフくんと部屋の隅っこに移動して遊び始めた。

「勉強…しなきゃだよなぁ。」
「そうですよ!頑張って終わらせて今夜はしっかり寝てくださいっ!」
「おー…。」





「この問題、確かひっかけ問題ですよね。サワロ先生が言ってたような…どこかにメモ書いたんだけどな。」

「あっ、これです。答えは"全て当てはまらない"ですね。」

「…ペパー先輩?」

勉強開始から一時間ほど経ち、最初はぽつぽつと会話をしていたものの、段々と口数が減りとうとう全く返事が返ってこなくなった。もしかしてと思い隣を見ると案の定ペパー先輩は夢の中に旅立っていて。
起こさないとと思ってほんの少しだけ手を伸ばしたが、本当に気持ち良さそうに寝ているものだから躊躇してしまい、行き場を失った手はへろへろと情けなく机へ着地した。

それにしても。

「可愛いなぁ…。」

長いまつ毛は伏せられ、放射線状に伸びている。一度も聞いたことないけど、ペパー先輩の親御さんってどんな人なんだろうか。きっとすごく美男美女だろうな。ペパー先輩が起きたら聞いてみよう。

マフィ子達も遊び疲れたらしくカーペットの上で身を寄せ合って眠っていた。



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