ペパー先輩とピクニックをした日から一ヶ月が経った。
今日は授業を受けてからたまたま廊下ですれ違ったジニア先生にお手伝いをお願いされてしまい、放課後はずっとアカデミー内を行ったりきたりしていて。普段の運動不足が祟り、錆びついたロボットのように身体が重くもたついている。
お風呂上がりなのにドライヤーを持つ余力も無く、髪も乾かせないままへなへなとベッドにダイブした。

「疲れた…。」

ロトロトロト、とスマホがリズミカルに震える。ベッドに埋めていた顔を少しだけ上げスマホに目をやるとチャットが一件届いていた。
ちなみにロック画面はペパー先輩の写真。この画面を見るだけでかなり元気になるから、恋をしている人に是非試してほしいライフハックだ。

《課題終わんねえ!!》

「へへ…可愛い…。」

差出人はペパー先輩だった。
実は一ヶ月前のピクニックの日に、なんとペパー先輩と連絡先を交換してしまったのだ。
ある時は相棒の写真を送り合ったり、電話を繋いだまま一緒に課題をやったり、あとは今みたいにお互いの近況を報告したりして、連絡が途切れることはほとんどなかった。

身体は疲れているはずなのにペパー先輩への返事を考えている間は無敵状態になれるから恋って偉大だ。

《がんばれ!ペパー先輩ならできる!》
《二日ロクに寝てなくてマジヤバなんだよー。明日一緒に課題しねえ?》
《えーっ大丈夫ですか?明日やりましょう!明日のXX時にアカデミーのエントランスでいいですか?》
《XX時了解!んじゃまた明日な。》

明日の待ち合わせが待ち遠しくて、送ってきたメッセージを指で何度も何度もなぞる。返事の代わりに"OK!"とポップなフォントで書かれたスタンプを送信した。



結局髪の毛を乾かさないまま寝てしまい、翌朝起きてから泣く羽目になったが何とかペパー先輩との約束の時間に間に合った。
待ち合わせの時間の十分前にアカデミーのエントランスへ行くと、既にペパー先輩は柱にもたれかかりながら私を待ってくれていた。
腕を組んで立っている姿も格好良くて少しだけ顔が緩んでしまったのは内緒だ。

「ペパー先輩!」

名前を呼んだが返事は無かった。俯いているせいで表情も読み取れない。もしかしたら待たせたことを怒っているのかと思い、恐る恐るペパー先輩に近付いた。

「先輩、遅れてごめんなさい…。」

ペパー先輩は何も言わず黙っている。やだやだ、嫌われたくない。約束の十分前とはいえ待たせてしまったのは事実だ。嬉々としてマフィ子につけるリボンを選んでいた私の頭を思いきり殴りたい。
必死で土下座したら許してもらえるんじゃないか、と恐怖のあまり思考が追いついていない頭で考えながらペパー先輩の顔を覗き込んだ。

「……すぅ。」
「…へ?」

目を瞑って口をむにゃむにゃとさせているベビーフェイスがそこにあった。数日寝てないということもあり、待ち合わせ中に突然襲ってきた睡魔には勝てなかったらしい。少し仕返しをしてみたくなり、シュッと引き締まった頬を少しだけ抓った。

「あでッ!」
「先輩、寝ぼすけちゃんですね。」
「うわうわうわ!すまん、寝ちゃってたか…!?」
「ぐっすりでしたよ!待たされたことに対して怒ってると思っちゃいました。」

一頻り謝られた後、ペパー先輩は眉毛を下げて気まずそうに口を開いた。

「あー…今日は俺の部屋で課題しねえ?」
「え!?ペパー先輩の部屋!?!?」
「や、あの!課題するだけで…その…変なことはしねえから……。」

消え入りそうな声でぼそぼそ独り言のように呟き、"課題するだけで"以降は全く聞き取れなかったが、せっかくの申し出ををお断りするのもどうかと思い、ペパー先輩の部屋で課題を進めることになった。



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