楽しみにしていた授業ほどあっという間に時間が経つから困る。惜しくも授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いてしまった。合法的に(?)正面からペパー先輩を眺められる眼福タイムもここまでだ。

「今日の授業はここまでにしましょうか。ありがとうございました!」

ハッサク先生がそう言うと、隣にいたフカマル先輩もフカフカと鳴きながら飛び跳ねた。
次はいつ会えるかな…なんて考えながら昼休憩に行く準備をしていたその時だった。

「なあ、」
「あっ、はい!……はっ!」

振り返った瞬間、私は言葉を失った。丁寧に小さく畳まれたピクニック用のテーブルクロスを片手に持ったペパー先輩が立っていたからだ。

「一緒に昼飯食わねえ?」
「わ、わわわわ…?!!?!」
「あー…無理にとは言わんけど、」
「たっ!食べます!食べさせてください!?」
「うし、行くか。」

ほんの少しだけ口角を上げて控えめに表情を崩したその綺麗な笑顔は、私の思考回路を容易く停止させてしまうくらい破壊力抜群だった。もしも私がハッサク先生だったら感極まっておいおいと大泣きしていただろう。

隣を歩くペパー先輩をバレないように横目で盗み見る。背が高くて、まつ毛が長くて、髪の毛がふわふわしてて、それに…シャンプーか柔軟剤なのか分からないけど、とても良い匂いがする。盗み見たつもりだったが視線を感じたらしく、ペパー先輩と目が合ってしまった。やばい、何か言わなきゃ。

「い、良い天気ですね…!」
「そうか?…いや、曇ってね?」
「ひ……!」

そこからは正直何を話したか覚えていない。そんな感じで軽く粗相をしつつテーブルシティを出てすぐの野原へ着くと、ペパー先輩は背負っていたリュックを下ろして手馴れた様子で中からピクニックグッズを取り出した。
私が手伝いに入る隙もないくらいあれよあれよとピクニックの準備が整ってしまい、棒立ちで見惚れていた自分が何だか恥ずかしかった。

「昼飯作るから、マフィティフと一緒に待っててくれ。」
「ワフ!ワフッ!」
「マフィティフくん!」

マフィティフくんがボールから出してもらい、短い両足を屈伸させて飛び跳ねている。私も慌ててマフィ子を出してやると、二匹とも大喜びで先程のように鼻先を擦り合わせ、じゃれ始めた。
マフィティフくんは手と鼻を器用に使ってペパー先輩の鞄からボールを取り出すと、大切そうに咥えてマフィ子の前に差し出した。それに応えるようにマフィ子も鼻先でボールを転がしている。

大柄なマフィティフ達がおもちゃの小さなボールを楽しそうに取り合っていて、完全の二匹の世界だったのでスマホをポケットから出して遠巻きに写真を撮った。

ふと、パンの香ばしい匂いが辺りに漂っていることに気付いた。テーブルに歩み寄れば、そこには色とりどりの野菜が挟まれたサンドウィッチが二つ置かれていて。

「お待ちどうさん!」

本当は最高に幸せな夢を見ているだけなんじゃないかと思い、何度も頬を抓った。
笑顔のペパー先輩、じわじわと痛む頬、視界の端でじゃれ合うマフィティフが二匹。まるで嘘のようだけど、紛れもない現実だった。


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