ふわふわ、ふわふわ。

「ここは…?」

生暖かい風が頬を撫でる。木に寄りかかって眠っていたからか、何だか腰が変な感じだ。
辺りを見渡すと、遠くの方でマフィ子たちがボールを奪い合っている。だけど肝心のペパー先輩はどこにも居なくて。

「ペパー先輩…どこに行ったんだろう。」

立ち上がった瞬間、後ろから何か、というか、誰かに抱き着かれた。どこかで嗅いだ覚えのある良い匂いが鼻を掠めた。

「捕まえた!」
「え!?」
「もう逃がさねえぜ!」
「ペパー先輩!?何で!??」
「何でって…別に良いだろ、彼氏なんだからよ。」
「彼氏!?いつ!?どこで!?誰が!?」
「俺達、昨日付き合うことになっただろ。本当に大丈夫か?」

私の反応に納得がいかないのか、ペパー先輩は小首を傾げて怪訝そうな顔をした。美人は怒ると怖いとはよく言ったものだ。
…しかし本当にペパー先輩と付き合った記憶が無い。この恋は私の片思いでしかないからだ。悲しいかな、ここが夢の中だと気付くのにそう時間はかからなかった。それならばこの願望まみれの夢、堪能するしかない。

「そ、そうでしたね!すみません。」
「お前抜けてんな…。ま、そういうところも嫌いじゃないぜ。」
「えへぇん…格好良い…。」

変な声が出てしまったがここは夢の中なのでモーマンタイだ。ペパー先輩はふっと笑ったかと思えば、再び私を抱き寄せ、長くてふわふわとした髪の毛を耳に掛けてゆっくりと顔を近付けた。これは…これは……!

ロトロトロト!!

「…はっ!」

スマホがけたたましく鳴り響く。さっきまで見ていたは儚くも散り散りになり、あれよあれよと現実に引き戻された。ちゃんと五分で起きれるようにアラームをかけていた自分を思いっきり殴りたい。ああもう、せっかくペパー先輩とイチャイチャするチャンスだったのに。

ところがどっこい、目が覚めたというのに夢と同じく至近距離にペパー先輩の顔があった。それだけではなくペパー先輩の後ろには天井があって、さっきまで見ていた夢の余韻に浸るどころの話ではなくなってしまった。

「えっ!えっ!?」
「ち、違…!違う!俺はナマエが疲れた顔して寝てたからベッドの方が寝やすいかと思って!」

分かってはいたけどそこまで全力で否定しなくても良いのに、なんて心の中でペパー先輩に悪態をつく。ほんの少しだけ期待してしまい恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。

髪の毛を手ぐしで整えながらアラームを止めたが、スマホには既に一度アラームが解除された形跡があった。

「すまん、ナマエが起きなかったから十五分後にまた鳴るように再設定してたんだ。」
「そうなんですか、ありがとうございま……えっ!?」

頭から水を被ったような衝撃を受けた。待って待って待って待って待って待って。ペパー先輩が私のスマホを触ったってことは、つまり。
オイル不足のロボットのようにギギギとぎこちなく振り向いた。いや、でもペパー先輩は人のスマホの中身をジロジロと見るような人ではない。というかそうであってくれ。

「待ち受け画面、びっくりしたぜ!ははっ。」

一縷の願いが音を立てて砕け落ちた。


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