あの後すぐ、また意識を手放してしまった。今度は現実らしく、真っ白なシーツが陽の光に反射して少し眩しい。伸びをして隣を見ると、ネズさんが同じベッドで眠っていた。

「なっ、ななななななななな!!?」
「ん…起きたんですか。」
「ネズさん、あのっ!?なんで服着てないんですか!!?」

骨張った白い肌が目に入り、慌てて顔を手で覆った。指の隙間からネズさんの顔を見たけど、ネズさんは目も合わさずに言い放った。

「いや、それはお前もでしょ。」
「ぎゃあああああああああ!!何で!?どういう事!!?」

ネズさんは私と目を合わせないまま話し始めた。どうやら昨日私が夢だと思っていたのは全て現実に起こった事らしい。ただただ恥ずかしくて爆発してしまいそうだ。

「悪いのは俺です。俺が、ソファで眠っていたお前に欲情してしまいました。」

ネズさんは部屋のベッドまで私を運んでこの通り服を脱がせたまでは良いものの、そのまま私が寝てしまったので行為には及ばなかったらしい。
自責の念からか俯いたまま頭を抱えて申し訳なさそうに話すネズさんを見て胸がちくりと痛んだ。

「もう…会わない方がいいと思います。」

かろうじて聞き取れるくらい弱々しい細い声だった。何と言っていいか分からずネズさんの華奢な肩に抱きついた。

「嫌です!」
「な…っ、」
「だって私ネズさん大好きだもん!キス…したのだって夢だと思ってたけど私も望んでの事だったし!それにもっと色んな事したいと思って…!」
「分かった、分かったから一旦落ち着きなさいよ。」

ベッドの下に落ちていた衣類を手渡され、お互いに気まずい雰囲気の中服を着た。そういえばすっかり頭から抜けてしまっていたけど、マリィちゃんが居ない日で本当に良かった。

ネズさんに促されダイニングに移動し、居心地の悪さを感じながらテレビを観ているとミルクティーが注がれたピンクのマグカップを差し出された。ほわほわと昇る湯気が何とも脱力的で、今の私とはまるで正反対だ。

「…で、その。」
「は!はい!」
「さっきの事ですけど、お前はそれで良いんですか。」

何ともネズさんらしい濁し方だ。"それでいい"が何を指すかなんて、そんなの分かりきっている。私がネズさんとお付き合いをするかどうか、という事。

「よ、よろしくお願いします………!」

ネズさんは表情を全く変えず暫く沈黙した。元々がポーカーフェイスなだけあって何を考えているか分からないような人だけど、まさかこんな状況でも表情を崩さないなんて。もしかして答え方がまずかったのかな、嫌われたのかな、なんて不安を巡らせているうちにネズさんがほんの僅かに口元を緩ませた。

「おいで。」

引き寄せられるようにネズさんの胸の中に飛び込んだ。細いのに意外と筋肉質で、それでいてすごく良い匂いがする。
細い指が私の頬に触れ、すりすりと撫でた。熱が集中する頬に冷たい指が気持ち良くて目を瞑っているとフッと鼻で笑うのが聞こえ、途端に恥ずかしくなりネズさんの長い髪の毛に顔を埋めた。

「まったく、お前は本当に可愛いですね。」
「か…可愛くなんてないです。」

ネズさんは私に軽くキスをした後、真剣な表情で話し始めた。

「昨夜あんな事をしておいて言うのも何ですが、今からでもお前を大切にしたい。交際中に一線は越えないと約束します。」
「わ、わかりました。」
「はぁ…こんな気持ち、初めてですよ。」

髪の毛をかき上げながら呟くネズさんがやけに色っぽく見えて、鼓動が早鐘を打った。付き合いたてでこんな状態ならいつか心臓がもたずに死ぬんじゃないかなんて馬鹿みたいな事を少しだけ考えた。これが、お付き合いを始めた日の事。


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